知の市場

第12回講義概要「世界から協同組合を見る」

○ 開催日時
2017年7月5日(水) 15:00~16:30
○ 開催会場
大東文化大学 板橋キャンパス(高島平)
講師とテーマ

 堀内 聡子(日本生活協同組合連合会 管理本部人事企画部人材開発グループ)
 「世界から協同組合を見る」

概要

 今回の講義は、日本生協連人事企画部の堀内さん。堀内さんは2014年から3年間、国連のILO(国際労働機関)に出向され今年3月に帰任されました。子どもの頃の生協との出会い、大学生のころ国際協力のセミナーで海外の仕事に興味をもち、大学卒業後は国際協力の大学院に進学し、タイ、カンボジアなどで調査研究に従事。その後、青年海外協力隊でフィリピンへ赴任。そして、日本生協連に入協。営業や商品企画といった業務を経験した後、国際部へ異動しILOに出向されました。現在は人事企画部に所属。こうした経験を踏まえてグローバルな視野から協同組合が世界で果たしている役割について講義していただきました。

 ILOとは、国連の専門機関の一つで本部はジュネーブ。すべての人が人間らしい働きがいのある仕事(ディーセントワーク)を手にする社会をめざす。1日8時間労働、母性保護、児童労働に関する法律、さらに職場の安全や平和的な労使関係の推進などの政策を作ってきた成果がある。

 なぜILOが協同組合の振興を推進するのか? ILOの設立は1919年。翌年の1920年にILOは協同組合促進のための専門部署を設立しました。生産者、消費者、労働者、企業が、持続可能で自立した協同組合が雇用機会の創出、社会的保護の提供、貧困撲滅になるとの立場から約100年に渡って多様な技術協力プログラムを実施してきました。ちなみに、協同組合開発に関わる活動をしている国際機関は、ILOだけではない。国連経済社会委員会(UNDESA)、国連食糧農業機関(FAO)がある。これに加え、民間組織ICA(国際協同組合同盟)や農業団体WFO(世界農業者機構)などがある。

 世界各国には、本当に様々な協同組合がある。(堀内さんは、たくさんの事例を紹介してくれましたが、その中からインドの協同組合組合員へのインタビューをご紹介します)インドで路上や廃棄物処分場で、ビン・缶などを売却することで現金収入を得ている人たちがいます。雇用契約がない中で働く人たちの間では、就労に係わる権利が否定されていたり、良質な雇用の不足、不十分な社会的保護、労使の対話の不在といった課題を抱えていました。協同組合を設立し、その仕組みを利用することによって労働が人間らしい働きがいのあるものへと変わって行きました。このインタビューに回答してくださったのは、インドのSWaCH協同組合のスーマン・ムアーさん。もともと、ムアーさんは労働組合に所属し、同業者の方と一緒に、SWaCH協同組合を設立されました。以前は、路上でゴミを拾い仕事をしていましたが、現在はこの協同組合が市と契約を結び一軒一軒家庭を訪問しゴミの収集をしています。

インドのSWaCH協同組合のスーマン・ムアーさんへのインタビューより

協同組合を設立することにより、どのように労働環境の改善をもたらしましたか? これまでは、ごちゃ混ぜになったゴミの中に手を突っ込み、リサイクルできるものを収集していました。協同組合で、ゴミの分別キャンペーンを実施したのです。ゴミが分別されたことにより、よりリサイクルできるものが増えました。協同組合でゴミ収集場所を設置したことにより、いらなくなった服など再生利用できるものも多くなりました。・・・・・・こうした啓発活動を通じて、私たちは地方自治体を訪問し対話をする機会もできました。SWaCH協同組合を設立することにより、人々の接し方は変わりましたか? これまでは、通り過ぎる人は鼻を押さえ、話しかけられることもなく、私の隣で立ち止まる人すらいませんでした。協同組合を設立したことにより、人々の態度は大きく変わったと思います。もっと、尊重されるようになりました。今は、家の中に迎え入れられ、人がいなくても、入ってゴミを収集してかまわないといってくれる人もいます。以前だったら泥棒と呼ばれるでしょう。

受講生のレポートより

【Aさんの報告】今日の授業で世界の協同組合を学び、世界には産休や育休など労働者の権利がない、国に守られていない家事労働者や路上で働く人の存在を知りました。そういった人たちに対し協同組合は、労働者の権利を与えていることを知りました。私が住む日本では、まず働くには契約書があって、いろいろな社会保険があって、労働者の権利があることが当たり前なので、そういった世界に目を向けて、いかに自分が恵まれた環境にいるかを思い知らされました。また、協同組合だけでなく様々な日本の企業も難民や労働者の権利が保障されていない人たちに対して、雇用をつくるような事業を行ったらよいのではないかと思いました。また、今日の授業を受け雇用を創り出す企業で働いてみたいなと思うようになりました。【Bさんの報告】協同組合は、世界100カ国以上にあり10億人以上の組合員がいるということを知って、その数字の大きさに驚いた。また、規模も大きく上位300の協同組合の事業高は160兆円ということにも非常に驚いた。2016年協同組合の思想と実践が、ユネスコの無形文化遺産として登録されたということは、非常に素晴らしくすごいなと思いました。仕事をする上で働く環境ややりがいを感じられる職場があると生き生きと仕事ができると思うので、こういった活動は多くの人々の役に立つのだろうと思いました。生協の活動は目立って表に出ることがないように思うのですが、多くの人々の生活を見えないところで支えているのだと思いました。スイスではマーケットシェアが50%近くあり、日本とは全く違うのだなと思いました。生協のシェア率が高いとどのようになるのだろうと思った。【Cさんの報告】私は国際関係で日本と世界をつなげられるような仕事をしたいと思っているので、今回の堀内さんのお話は現地でどのようなことを経験し、何を得て、どのように仕事についたのか詳しく知ることができてすごく良かったです。また、生協は私にとってすごく身近なもので、一番近いものだと大学生協などがありますが、世界をまたいで仕事をしている堀内さんのお話をきき、世界から見る日本の生協がどのようなものか知ることができました。私は今3年生で自分の将来を本格的に考えなければいけない時期になってきましたが、自分の夢に向かって大学院に行くことを決め、海外で働く決断をした堀内さんはすごく行動的で自分ももっと頑張ろうと思えたとても良い機会でした。