生活協同組合研究 2022年12月号 Vol.563
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コロナ禍により深刻化する子どもの貧困
厚生労働省が昨年末に発表した子どもの貧困に関する調査によれば、「過去1年間に必要とする食料が買えなかった経験があったか」との質問に、貧困世帯層の約4割がYES(「よくあった」8.3%、「ときどきあった」10.1%、「まれにあった」19.3%)と回答している。
今号では「子どもの貧困」をテーマに以下の執筆陣に論考を依頼した。
宮本みち子氏は子どもの貧困の現状を概観したうえで、「貧困は家庭の自己責任という考え方も未だ根深く存在している」が、「生まれた時から生涯の貧困と社会的排除が定まってしまうような社会状況に歯止めをかけなければならない」と論じている。
葛西リサ氏は約半数が貧困層に区分される母子世帯の居住問題に焦点を当てる。そしてコロナ禍により居住する賃貸住宅の家賃が支払い不能になるケースも少なくなかったこと、そのような中で、母子世帯向けシェアハウスが一定の支援の役割を果たしていると述べる。
渡辺由美子氏は学習支援NPO を運営してきた経験をふまえ、「狭いアパートの一室には机もなく、勉強するスペースもない。節約をかさね休みなく働く親に、参考書や過去問を買ってくれと言い出せない。受験生なのに、家に帰ると弟や妹の世話や家事などをしなければならず、勉強する時間も体力もない」と子どもの貧困問題に取り組む必要性を感じさせる。
所道彦氏はイギリスの動向について、「1960年代後半から離婚などが増加し、家族の多様化が進む中で、ひとり親世帯(主として母子世帯)が、経済的な困窮に直面することになった。女性が労働市場で十分な収入を得ることも、就労するための条件整備を行うことも想定されていなかった」と述べているが、いまの日本の社会状況と変わらないことに驚かされる。
湯浅誠氏にはコロナ禍にもかかわらずこども食堂が増え続けている理由を聞いた。「人口が減り、高齢化が進み、空き家が増え、商店街がシャッター通りになり、小学校が統廃合されるような状況の中で……だからこそ、このような活動が必要なのだと考える人たちがいる」との言葉が印象に残った。
堀越優希氏には、全国の生協による子ども支援の取り組みを報告いただいた。日本生協連子どもの未来アクションでは、「ひとりぼっちの子どもをなくし、信頼できる大人がいる地域をつくること」「どんな子どもも温かい人間関係の中で安全に楽しく過ごせる居場所をつくり、寄り添うこと」を目指して全国の生協と連携している。
「相対的貧困」という言葉のもつ印象により、子どもの貧困の問題解決に取り組む意義が人々から十分な理解を得られていないのではないかと危惧するとともに、貧困世帯に生まれることになった未来ある子どもたちにとって、今の世の中が少しでもフェアなものとなることを祈念する。
(西尾 由)
主な執筆者:宮本みち子、葛西リサ、渡辺由美子、所 道彦、湯浅 誠、堀越優希
目次
- 巻頭言
- 若年女性の生きにくさと女性支援新法の成立(戒能民江)
- 特集 コロナ禍により深刻化する子どもの貧困
- 子どもの貧困のいま(宮本みち子)
- コロナ禍を受けた母子世帯の居住貧困(葛西リサ)
- 学習支援から就労支援まで──キッズドアの取り組み──(渡辺由美子)
- イギリスの子どもの貧困対策の現在地(所 道彦)
- コロナ禍を乗り越え増え続けるこども食堂(湯浅 誠)
- 全国の生協による子ども支援の取り組み(堀越優希)
- 国際協同組合運動史(第9回)
- 国際協同組合同盟(ICA)第6回ブダペスト大会(鈴木 岳)
- 本誌特集を読んで(2022・10)
- (日髙元子・神田すみれ)
- 研究所日誌
- 生協総研賞第14回「表彰事業」候補作品推薦のお願い
- 生協総研賞第14回「表彰事業」実施要領(抄)
- 公開研究会(オンライン)戦争と平和を市民が考えるために(2/9)