生活協同組合研究 2022年10月号 Vol.561
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市民がつむぎだす平和
2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、21世紀にこのような国家による他国への侵攻という古典的な戦争が始まったことだけでなく、多くの人が、戦争が起きた=平和な世界が壊されたと認識したという意味でも衝撃的であった。冷戦終結後の30年余りの間に限っても戦争や紛争がなかったわけではない。世界はまだまだ暴力にあふれ、平和ではなかったにもかかわらず、今回のウクライナ侵攻が圧倒的な情報量で伝えられるまで、私たちはそのことを十分に認識してこなかったといえよう。
戦争は国家による暴力の発動であり、その意味でいわゆる大文字の「政治」に関する事柄だが、「誰かがやっていること」ではない。ウクライナ侵攻による食糧やエネルギー供給への影響を例に挙げるまでもなく、戦場は私たちの日常生活の延長線上に存在している。また、戦争は国家が始めてしまうものであるとしても、被害を受けた人々の支援や、平和構築の局面では、NGO などの市民の力が大きな役割をはたしてきた。戦争や紛争の予防という観点からも、市民間の国際交流や途上国支援などが大きな意味を持ちうる。
本特集ではこのような問題意識から改めて平和を考える。市民が国際政治をどう考えるか(遠藤論文)、平和構築に市民が果たす役割(桑名論文)、ジェンダーと戦争・紛争(戸田論文)、日本の難民支援活動(長論文)などいずれも私たちが戦争や平和をどう考え、どうかかわることができるのかを示す論考である。また続く論考では、アジア生協協力基金(湯本論文)や民衆交易(市橋論文)など生協の活動や事業も市民が平和をつくり出すことに貢献していることが示されている。
日本では例年、8月に平和を考える報道がなされることが多い。しかし、それはヒロシマ・ナガサキに象徴される、原爆の、そして戦争の被害者としての側面を強調するものではなかっただろうか。日本生協連創立以来の「平和とよりよい生活のために」は、そうしたナイーブな「平和」論に棹さすものではなく、朝鮮戦争の最中に謳われたアクチュアルなスローガンであったはずである。本特集が改めて戦争と平和を考えるきっかけの一つになれば幸いである。
(三浦一浩)
主な執筆者:遠藤誠治、桑名 恵、戸田真紀子、長 有紀枝、湯本浩之、市橋秀夫
目次
- 巻頭言
- 非戦と共生(伊藤由理子)
- 特集 市民がつむぎだす平和
- 強い軍事力が安全をつくるのか
──戦争が現実的になってしまった世界で戦争を避ける方法を市民が考えるために──(遠藤誠治) - 平和構築にNGO,市民社会が果たす役割(桑名 恵)
- 戦争と平和のジェンダー──市民としてできることは何か──(戸田真紀子)
- 日本から「難民」支援を考える(長 有紀枝)
- 積極的平和としての貧困撲滅と格差是正に向けて──アジア生協協力基金の役割と今後の課題──(湯本浩之)
- フェアトレードと民衆交易──草の根貿易ネットワーク再考──(市橋秀夫)
- 国際協同組合運動史(第7回)
- 国際協同組合同盟(ICA)第4回パリ大会─1900年─(鈴木 岳)
- 本誌特集を読んで(2022・8)
- (鈴木勝士・笹野武則)
- 新刊紹介・私の愛蔵書
- 篠原匡『誰も断らない』(藤田親継)
- 堀田正彦著,オルター・トレード・ジャパン編『人から人への交易』(三浦一浩)
- 稲垣眞美『ワインの常識』,山本博『岩波新書「ワインの常識」と非常識』(鈴木 岳)
- 研究所日誌 アジア生協協力基金2023年度・助成金一般公募のご案内
- 全国研究集会 地域における多様な「協同」の形を考える(11/5)
- 公開研究会(オンライン) フランスとデンマークの協同思想より学ぶ(12/8)