生活協同組合研究 2022年9月号 Vol.560
新型コロナと大学~ポストコロナを見据えて
大学は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を最も強く受けた機関の1つであろう。大学生はキャンパスに通うことはできず自宅から講義に参加し、教職員はオンライン講義等の対応に追われることとなった。大学に出入りする人数が大きく減少したことから、大学に密接した協同組合である大学生協は経営的に大きな打撃を被った。2020年4月の緊急事態宣言から2年以上が経過し、感染が一時的に収まることはあるものの、2022年7月時点でも第7波の感染拡大が起きており、その影響は未だ続いている。もはや本特集に付けた「ポストコロナ」という言葉自体、安直で、楽観的な言葉にも思える。
しかしながら、このコロナ禍の「後」がどのようなものになるのか、どう行動するのがより良い結果を導くのか、そのことは考えなければならない。そのヒントの一部が、この間の経験にも含まれているはずだ。学生がコロナ禍においてどのように生活し何を感じたのか、教職員はどのように対応しどのような苦労があったのか、大学生協を初めとして協同組合組織はそこにどう関わっていたのか、それらを振り返り記録しておく必要がある。本特集はここに目的を置くこととした。
中森稿では、コロナ禍により大学生協が受けた影響を整理しつつ、組合員である学生や教職員にとって価値あるものは何であるのかという点を問い直し、その上で作られた大学生協「再生」の基本方針について紹介いただいた。山口稿では教職員の立場から、コロナ禍による遠隔授業の広がりやその中での苦労について徳島大学総合科学部における実際の取り組みを振り返りつつ、今後の見通しについて展望していただいた。谷・山咲稿では学生への定性調査から、学生がこの間の大学生活をどのように過ごし、その中で何を感じていたか、コロナ以前と比べて考え方は変わっているのかといったことについて検討していただいた。
後半の原稿では大学生協とその他の協同組合との協同組合間協同の事例を紹介していただいている。寺尾稿では、学生総合共済が大学生協共済連とコープ共済連の「共同引受」からコープ共済連の「元受統合」という新たな協同関係に移行していくことについて解説いただいた。富田稿では地域生協の事例として、京都生協による大学生協職員の雇用継続支援や大学生を対象とした食生活支援の取り組みを紹介いただいた。栗田稿では、大学生協東海事業連合、南医療生協、コープあいちの3者で設立した一般社団法人協働・夢プロジェクトによる「協同」体験セミナーについて紹介いただいた。
本特集が、コロナ禍における大学および関係する方々の努力と経験を共有する一助になることを期待する。
(宮﨑 達郎)
主な執筆者:中森一朗、山口裕之、谷 美奈、山咲博昭、寺尾善喜、富田晋悟、栗田俊弘
目次
- 巻頭言
- 地域生協と大学生協・大学生との「助け合いの輪」の広がりの可能性(永井伸二郎)
- 特集 新型コロナと大学~ポストコロナを見据えて
- 大学生協「再生」を目指して(中森一朗)
- 大学の授業の遠隔化の実際と今後の展望(山口裕之)
- コロナ禍からポストコロナへの移行時期における対面・非対面授業と人間関係づくりに対する学生の捉え方とその変化──質的追跡調査によって示唆された様相──(谷 美奈・山咲博昭)
- 大学生協共済連とコープ共済連による協同組合間協同について(寺尾善喜)
- 京都生協におけるコロナ禍の大学生協との協同組合間協同の事例(富田晋悟)
- 協働・夢プロジェクトによる「協同」体験セミナー(栗田俊弘)
- 研究と調査
- 雇用によらない働き方における就労環境の問題と「協同労働」の可能性(島村希里)
- 国際協同組合運動史(第6回)
- 国際協同組合同盟(ICA)第3回デルフト大会(鈴木 岳)
- 本誌特集を読んで(2022・7)
- (本浦孝典・本光和子)
- 新刊紹介
- 樋口恵子『老~い,どん!2 どっこい生きてる90歳』(藤田親継)
- 研究所日誌
- アジア生協協力基金2023年度・助成金一般公募のご案内
- 全国研究集会 地域における多様な「協同」の形を考える(11/5)
- 公開研究会 健康になれる社会のしくみづくりに向けて(9/28)