生活協同組合研究 2022年7月号 Vol.558
超高齢社会の介護問題:介護人材の不足にどう対応すべきか
2025年には「団塊の世代」が75歳以上の後期高齢者になる。これに65歳以上の高齢者を含めると、国民の約3人に1人が65歳以上、約5人に1人が75歳以上という「超・超高齢社会」となる。さらに2040年には「団塊ジュニア世代」が65~70歳を迎え、国民の約2.8人に1人が65歳以上、約4人に1人が75歳以上となり、高齢者人口がピークを迎えると推計されている。こうした人口構成の変化により、医療や介護の需要増に伴う介護人材の不足や、社会保障費の逼迫等が懸念されている。これらは「2025年問題」、「2040年問題」と呼ばれ、国を中心に様々な対策が進められている。
しかしながら、依然として状況は厳しい。現在の危機的な財政状況を受けて、介護保険制度もまた、軽度者の保険給付からの切り離し等、介護にかかる費用を軽減する方向に大きく舵を切っている。しかし、軽度者の切り離しに対しては、介護現場や利用者からの反対の声も強く、現時点で、国の想定通りには進んでいない。
また、介護人材をめぐっては、2025年に約32万人不足し、2040年には約69万人不足するという推計が出されている(厚生労働省「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」)。そして、人材確保に一番密接な処遇の問題も解決しておらず、介護現場で働く労働者らを組織する日本介護クラフトユニオン(NCCU)の発表によれば、介護職員の月額賃金の平均額は全産業平均より約4万円低いという。労働の対価として見合う賃金へ是正をしていかなければ、介護人材はさらに不足し、介護保険制度の維持が困難になることが危惧される。
このような背景から、本特集では、介護人材の不足や社会保障費の逼迫に対する解決策を検討することを目的に、5名の論者に寄稿をいただいた。介護職員の専門性をどう捉えるか、その専門性に見合う賃金となっているのかという処遇の問題だけでなく、現場でマネジメントを行う中間管理職の課題や、新たな労働力としての外国人労働者の受け入れに伴う課題など、多角的な視点で論じていただいた。
また、これらの論稿に加えて、生協の福祉・介護事業についての取材原稿も掲載した。生協の福祉・介護事業も、他事業者と同様に、介護人材の確保・定着に課題を抱えている。生協グループ全体の介護事業の規模は介護業界でも上位の規模であり、今後の日本社会の介護需要を支える上で重要な役割を担うと考えられる。本特集が、日本社会における介護事業のあり方と、今後の生協の福祉・介護事業のあり方を考えるための一助となれば幸いである。
(中村 由香)
主な執筆者:結城康博、三原 岳、下野恵子、塚田典子、大熊由紀子、白間勝則・梅津寛子、中村由香
目次
- 巻頭言
- コロナ禍とケア民主主義(相馬直子)
- 特集 超高齢社会の介護問題:介護人材の不足にどう対応すべきか
- 高齢者介護の現状と今後の展望(結城康博)
- 介護保険が直面する2つの制約条件──財源と人材の不足への対応、科学的介護をどう活用するか──(三原 岳)
- 介護離職を防ぐ“在宅介護サービス”──ホームヘルパーの賃金をあげ訪問介護を維持する方法を考える──(下野恵子)
- 日本の外国人介護労働者受け入れの成果と課題──今後の方向性について考える──(塚田典子)
- コラム1 『「寝たきり老人」のいる国いない国』から30年余、変わったこと、変わらなかったこと、そして、これからのこと(大熊由紀子)
- コラム2 地域購買生協の福祉・介護事業の現状と今後の展望(白間勝則・梅津寛子、聞き手:中村由香)
- 国際協同組合運動史(第4回)
- 国際協同組合同盟(ICA)第2回パリ大会(鈴木 岳)
- 本誌特集を読んで(2022・5)
- (阿南 久・清山 玲)
- 新刊紹介
- 宮台真司・野田智義『経営リーダーのための社会システム論構造的問題と僕らの未来』(藤田親継)
- 研究所日誌
- 生協総研賞「第20回助成事業」の応募要領
- アジア生協協力基金活動報告書 『アジアに架ける虹の橋』刊行のお知らせ
- 公開研究会 協同組合原則改定の議論をふりかえる(7/15)
- アジア生協協力基金活動報告会(8/26)
- 公開研究会 健康になれる社会のしくみづくりに向けて(9/28)
- 全国研究集会 地域における多様な「協同」の形を考える(仮題)(11/5)