生活協同組合研究 2021年12月号 Vol.551
さらなる電力市場改革の必要性─2050年カーボンニュートラル実現に向けて─
わが国は「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現をめざすこと」が、第203回臨時国会での菅内閣総理大臣(当時)の所信表明演説(2020年10月26日)で宣言され、2021年4月には、2030年度の温室効果ガス削減目標(2013年度比)を46%減とする方針も表明された。一方で、2020年から2021年にかけて、容量市場の高すぎる初回約定価格(2024年度分)や電力需給ひっ迫に伴う市場価格高騰(2020年度冬期)といった生協の電力小売事業にも影響を与えかねない問題が発生した。
そこで、この特集は2050年カーボンニュートラル実現に向けて、再生可能エネルギー主力電源化の視点で現在の電力システム改革の方向性を検証するべく企画したものである。
西田裕子氏には、日本の自然エネルギー100%へのエネルギー転換シナリオに関する共同研究の成果に、公益財団法人自然エネルギー財団のこれまでの調査研究による知見も加えて2050年自然エネルギー100%の姿を紹介いただいた。
高橋洋氏には、第6次エネルギー基本計画の背景や内容を分析することで、周回遅れの日本がカーボンニュートラルを実現できるか否か考察いただいた。
長山浩章氏には、配電事業ライセンスと環境価値市場を中心に、再生可能エネルギー政策の動向を詳細に解説いただいた。
山家公雄氏には、2020/21年度冬季に生じた電力需給逼迫・卸市場価格高値張り付きと2020年9月に公表された第1回容量市場入札結果(高価格約定)の要因の検証を通して、今日の電力市場が抱える根本的な問題を明示いただいた。
髙橋怜一氏には、2050年カーボンニュートラルと再生可能エネルギー主力電源化に向けて、「生協の電力事業に関する提言(2012年)」が示した方向性が今日的にも重要であることを再確認いただいた。
鈴木友和氏には、容量拠出金の負担により再エネ系小売電気事業者が今後受けると予想される影響やJEPX スポット市場での価格高騰時の影響などについて、インタビューにお答えいただいた。
再生可能エネルギーのさらなる普及拡大に向けて、電力システム改革が消費者の選ぶ権利を真に保証するための改革となることを願ってやまない。
(中村 良光)
主な執筆者:西田裕子、高橋 洋、長山浩章、山家公雄、髙橋怜一、鈴木友和
目次
- 巻頭言
- 時代の転換期に求められる歴史的想像力(伊丹謙太郎)
- 特集 さらなる電力市場改革の必要性──2050年カーボンニュートラル実現に向けて──
- 自然エネルギー100%の将来像(西田裕子)
- 第6次エネルギー基本計画でカーボンニュートラルを実現できるか?(高橋 洋)
- 我が国における再生可能エネルギー政策の動向(長山浩章)
- 卸電力市場の価格高騰と容量市場入札の高額約定価格が示す電力市場の不備(山家公雄)
- 2050年カーボンニュートラル宣言と生協の再エネ開発・電力事業(髙橋怜一)
- 電力小売事業をめぐる環境変化と対応(鈴木友和)
- 研究と調査
- 労働金庫による非営利・協同セクター融資の方法と課題
──先進2労働金庫のヒアリング調査と東北労働金庫への提案──(星 竜生) - 本誌特集を読んで(2021・10)
- (林 薫平)
- 文献紹介
- 西野寿章『日本地域電化史論』(中村良光)
- 新刊紹介
- 的場信敬・平岡俊一・上園昌武編『エネルギー自立と持続可能な地域づくり』(三浦一浩)
- 東京都生活協同組合連合会『東京都生活協同組合連合会創立70周年記念誌』(鈴木 岳)
- 研究所日誌
- 『生活協同組合研究』「巻頭言」のバックナンバー紹介
- 公開研究会 英国初期の協同構想と論争から学ぶ(2021.12.21)
- 公開研究会 生協共済の未来へのチャレンジ(2022.1.17)
- 公開研究会 エネルギーから地域ガバナンスを考える(2022.2.17)