生活協同組合研究 2021年10月号 Vol.549
森林をめぐる持続可能な調達
今年の夏、「50年に一度の記録的な大雨」という言葉をよく耳にした。数年前まではあまり聞く言葉ではなかった気がする。そして、2021年8月の豪雨においては、九州地方から関東地方に至るまで広範な地域で被害が発生した。被災地では、生協を含むボランティアにより支援活動が展開されている。一方、アメリカでは8月末に上陸した大型ハリケーン「アイダ」はルイジアナ州に上陸したのち、ニューヨーク・ニュージャージ州にかつてない大洪水を引き起こした。この同じ時にアメリカ西部カリフォルニア州では、干ばつによる大規模な山火事「キャルドア火災」が広がりを見せており、各地で大気汚染も深刻化した。
このように昨今世界中で頻発している異常気象に伴う災害は、地球温暖化によるものであることが明らかだ。私たちは地球規模で考えて行動することが問われている。
私たちの暮らしは、様々な消費財を消費して生活が成り立っている。この消費財は、生産地を始めとして、生産に要する原料や資材、そして輸送など一連のプロセス全般について、環境への配慮をすることが必要になってきている。例えば、野菜一つとっても、国産・輸入品を問わず、生育に必要な肥料や薬品等、そしてビニールハウス資材等、輸配送の仕方などが持続可能な仕組みとなっているかが、問われる。
本特集では、そうした持続可能な生産と消費について、「森林」という具体例から考えていく機会としている。特に、私たちにとって身近な「紙」や「植物油」について、世界や日本の事業者が、生産地・生産国から消費に至るプロセスを通して、どのように持続可能な調達を進め、実践していくのかを明らかにしている。
鮫島論考では、世界の森林問題、特に熱帯雨林の現状と課題を明らかにしており、こうした現状を踏まえて足立論考では、持続可能な調達と国際的潮流を解説している。そして南論考では、日本国内で持続可能な調達を推し進めるための課題を明らかにした。その上で、「紙」と「植物油」について国内の代表的事業者である2社の実践内容を、高瀬論考と泉論考で報告している。また、実際に現地でどのような活動が行われているのかについて、コープ洗剤環境寄付キャンペーンの支援先であるインドネシアの事例を天野論考で紹介する。最後に、生協の取り組みとして、日本生協連の持続可能な調達方針を松本論考で述べる。
この特集が、日本国内及び生協の持続可能な調達を推し進める一助になれば幸いである。
(茂垣達也)
主な執筆者:鮫島弘光、足立直樹、南明紀子、高瀬智子、泉 晶子、天野陽介、松本英明
目次
- 巻頭言
- 自動運転技術と社会受容性(中林真理子)
- 特集 森林をめぐる持続可能な調達
- 世界の熱帯林をめぐる状況(鮫島弘光)
- 持続可能な調達についての基本的理解と国際的潮流(足立直樹)
- 日本における持続可能な調達の目指すべき姿(南明紀子)
- 王子グループにおける持続可能な森林経営の取組み(高瀬智子)
- パーム油サプライチェーンのNDPEに向けたサステナブル調達の推進(泉 晶子)
- 独立小規模農家を支援する:コープ洗剤環境寄付キャンペーンの現地での活動(天野陽介)
- コラム 日本生協連CO・OP商品「責任ある調達基本方針」の公開について(松本英明)
- 研究と調査
- 協同組合が中心となった地域コミュニティの活性化への途(虫本正志)
- 本誌特集を読んで(2021・8)
- (麻生 幸)
- 新刊紹介
- 『平和とよりよい生活のために2021』(三浦一浩)
- 『労働者協同組合法ガイドブック』(鈴木 岳)
- 研究所日誌
- 生協総研賞 第13回「表彰事業」受賞作決定
- 第30回全国研究集会「ポストコロナ時代における生協の役割を考える」(11/2)
- アジア生協協力基金2022年度・助成金一般公募のご案内