生活協同組合研究 2021年8月号 Vol.547
ベーシックインカム(BI)─究極の貧困対策か罠か
本特集では、最近一般的にも話題になりつつあるベーシック・インカム(BI、最低生活保障などと訳される)を扱う。これをめぐる可能性から、さまざまに相反する見解、さらに国際的な歴史や実験などにも触れ、論点や課題を整理しようとするものである。
詳細は、それぞれの識者からの内容をお読み取りいただければと思うので、わたくしのような素人の前置きは特に不要であろう。ただ2つの情報のみ、以下記しておきたい。
近年活躍の目立つ小説家に井上真まぎ偽という人物がいる。この方が最近出版された短編集の表題、まさに『ベーシックインカム』(集英社、2019年10月)というものである。5編のうちの中心的な推理小説である「ベーシックインカム」のなかでは、経済理論とともに大学教授とお金をめぐる話が示されている。時代を象徴する内容なのかもしれない。
それと今回、「日本ベーシックインカム学会」という学会が設立されていることを知った。ウェブサイト上の学会の設立趣意によれば、「近い将来での日本でのベーシックインカム導入実現に向けて、財政学、金融論、社会政策、AI、法学、会計学等多様な分野の研究者と各地のBI運動家、政治家の方々が、ベーシックインカムについての意見交換を通じて、中立的立場で学術的な研究をおこなうことを目的として2018年12月に設立されました」とある。今回執筆された方々も、何らかの形でこの学会に参画されており、あるいは動画でも議論が配信されている。ご関心の向きには、こちらの検索がより参考になるだろう。
生協や協同組合にとって、格差が少なく公正な分配というのは、過去からのテーマのひとつだといえる。本特集を通じて、何らかの気づきにつながれば嬉しく思う。
(鈴木 岳)
主な執筆者:佐藤一光、本田浩邦、小野盛司、竹信三恵子、サラット・ダヴァラ、山森 亮
目次
- 巻頭言
- コロナがあぶり出した令和の格差社会(岩田三代)
- 特集 ベーシックインカム(BI)─究極の貧困対策か罠か
- ベーシックインカムは幻想か?──財源論,批判の論点──(佐藤一光)
- ポスト新自由主義の政策パラダイム──ベーシックインカムを超えて──(本田浩邦)
- 解放主義社会とAI,ベーシックインカム論(小野盛司)
- BIはAI時代の救世主なのか──対抗運動と公共サービスの再建を──(竹信三恵子)
- ベーシックインカム:危機に瀕している世界への変革的アイデア(サラット・ダヴァラ(翻訳:則包佳啓,監訳・解題:山森亮))
- コラム ベーシックインカムの歴史と協同組合運動(山森 亮)
- 残しておきたい協同のことば(追補版4)
- ロバアト・オウエン(鈴木 岳)
- 本誌特集を読んで(2021・6)
- (豊福裕二)
- 新刊紹介
- 駒村康平編著『みんなの金融─良い人生と善い社会のための金融論』(青山雅恵)
- 『未来へのバトン パルシステム東京50年のあゆみ』(三浦一浩)
- 『“おたがいさま市民” の生協像』(鈴木 岳)
- 研究所日誌
- 公開研究会「健康でありたいという願いによりそって」(8/27)
- 公開研究会「『(第3期)生協論レビュー研究会』から」(10/1)
- 第30回全国研究集会(11/2)