刊行物情報

生活協同組合研究 2021年6月号 Vol.545

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住宅をめぐる問題と支え合いの住まいづくり

 住まいに対する考え方や期待は人によって様々であろうが、住まいを必要としない人はいないだろう。昨年来のコロナ禍で、住まいの喪失に直面した人々からの切迫した相談が支援団体に寄せられている。本特集では住宅確保に関わる過度な経済的負担の問題と、人々が集まって作る支え合いの住まいに関する論稿を集めた。

 本号の特集では最初に、住宅困窮に関わる構造的な問題として、これまでの日本の住宅政策が持ち家促進を偏重し、無理のないコストで居住できる脱商品化住宅の供給を社宅と民間借家に依存してきたこと、そのような住宅が1990年代末以降に減少したために、持ち家のない高齢者や家族を頼ることのできない低所得者等が住宅困窮に陥りやすいことが平山論稿で明らかにされる。続いて川田論稿ではこのような住宅困窮の状況を家計負担の面から検討し、住居費はそもそも固定費としての性格が強いうえに(コロナ禍より前から)可処分所得に占める住居費負担が増加傾向であったこと、借家であれ持ち家の購入であれ住宅確保にかかる過度の経済的負担は若者の自立や家族形成を阻害すること、また住居費以外の消費抑制といった悪影響が指摘されている。

 このように住宅に関わる問題を個人の力で解決につなげることは容易ではないが、人々が集まって安心して住まうことのできる住居づくりへの取り組みは小規模ながらも行われている。小林論稿では子育てやバリアフリー、環境保護といった共通する希望を持った住民が集まって支え合う集合住宅の事例や、適切な基準を持つことで空き家をシェアハウスとして活用する事例を示し、幅広い住民が対象となる支え合いの住まいの実例を報告している。そして日本とは歴史も社会状況も異なるが、幅広い所得層を対象とした住宅手当や非営利組織の運営による社会住宅といった、社会全体を通じた住まいをめぐる支え合いの例として、倉地論稿ではデンマークにおける居住保障のありようを紹介している。日本と横並びに比較することはできないが、個人が自立した住まいを構えることを支えるという理念がどのように具現化されているのか、学ぶべき点は少なくない。

 最後に、2つのコラムで安心して住まうことのできる住居づくりに関する国内外の取り組みを紹介している。愛知県では南医療生活協同組合の組合員が中心となり、地域に豊かな交流の場を提供しつつ入居者がその一部となって生活できる集合住宅を作っている。また住宅不足により重い住居費負担が大きな問題となっている韓国のソウル市で、多様な主体による共同体住宅の建設が行われている。単に集合住宅を建てるのではなく、建設準備の過程から住民間や地域コミュニティとのつながりが重視されている点が小林論稿の事例や南医療生協の取り組みと共通している。本特集を通じて、個人に過度な負担を強いるこれまでの住宅政策の限界と住まいに関わる協同の取り組みの可能性に考えをめぐらせて頂ければ幸いである。

(山崎 由希子)

主な執筆者:平山洋介、川田菜穂子、小林秀樹、倉地真太郎、山崎由希子、鄭 城尤

目次

巻頭言
コロナ禍の下でも助け合いの組織として~活動は続くよ,どこまでも~(新井ちとせ)
特集 住宅をめぐる問題と支え合いの住まいづくり
住宅問題とは何か──”脱商品化/再商品化”の視点から──(平山洋介)
新型コロナウイルス感染症の拡大により顕在化する住宅アフォ―ダビリティの課題(川田菜穂子)
住宅の支え合いを通じた安心の住まいに向けて(小林秀樹)
デンマークの「みんなの家」とは何か?──社会住宅の意義と課題に着目して──(倉地真太郎)
コラム1 地域にとけこんだ安心の住まい 南医療生活協同組合の多世代共生住宅(山崎由希子)
コラム2 韓国・ソウル市における住宅問題に関する非営利組織の活動──Sohaengjuの事例を中心に──(鄭 城尤)
研究と調査
2頭のロバの絵は2頭のラバの絵だった(鈴木 岳)
本誌特集を読んで(2021・4)
(中川雄一郎・小野澤康晴)
新刊案内
平山洋介著『マイホームの彼方に』(山崎由希子)
稲葉剛他(編)『コロナ禍の東京を駆ける』(山崎由希子)
研究所日誌
公開研究会「認知症高齢者の生活支援」(6/17)
公開研究会「『消費生活協同組合の日』の登録を記念して」(7/30)
生協総研賞「第19回助成事業」の応募要領(抄)
研究所日誌