生活協同組合研究 2020年9月号 Vol.536
プラスチック汚染・脱プラスチック
プラスチックは低コストで大量に生産され私たちが快適で便利な暮らしをするためにかかせないものとなっている。プラスチックの世界生産量は3.8億トン(2015年)に達し、その4割程度が包装に用いられている。確かに、プラスチック包装は品質の維持に適し商品が破損しにくく陳列しやすい。
この包装用のプラスチックについては、今年7月より日本でもレジ袋が有料化され関心が高まった。また、女子高校生がお菓子の外袋・トレイ・個包装にプラスチックが使われるといった過剰包装を無くしてほしいという署名を集め製菓会社に届けたこともニュースになった。
プラスチックは優れた点も多いが生分解せず廃棄物として河川や海洋に流出してしまうとマイクロプラスチック等として長期にわたり環境を汚染し生態系に悪影響を及ぼすという問題がある。さらに、プラスチックごみの多くは最終的に焼却処理され CO2等を発生し地球温暖化の要因となっている。プラスチックの原料である原油は数億年前の生物の遺骸が堆積し生成されたといわれているが、人類はこの原油を急速に消費し10~15㎞程度しかない大気層に CO2等として放出し続けている。
また、プラスチック問題は大量生産・大量消費・大量廃棄社会という構造的な問題でもある。脱プラスチックを進めるためには個々人や企業の努力も必要ではあるが、プラスチックごみの回収や処分に対し生産者責任を拡大していくといった経済的手法も含めた構造的な対策が必要となる。EU は2018年の「欧州プラスチック戦略」で2030年までに使い捨てプラスチック包装を域内で無くし、すべてを再利用またはリサイクルすることを掲げた。国内では2019年5月の「プラスチック資源循環戦略」で2030年までに使い捨てプラスチックを25%排出抑制する等の目標が掲げられた。
本特集ではこのようなプラスチックを取り巻く問題について、プラスチックの生産と消費の実態、プラスチック汚染の現状、脱プラスチックにむけた国際的な動向、欧州の生協の取り組み、国内の動向と企業や生協の取り組み、「プラなし生活」といった新たなムーブメント等を論じていただいた。プラスチック問題の理解と、脱プラスチックの取り組みへの示唆となれば幸いである。
(渡部博文)
主な執筆者:原田禎夫、田崎智宏、佐藤孝一、川田 靖、鬼澤康弘、山本義美、小松遥香
※連載「新型コロナウイルスへの各国生協の対応」では、協同組合・相互扶助の保険組織、フィンランドの生協の取り組みを取り上げています。
目次
- 巻頭言
- 環境問題に取り組むということ(大信政一)
- 特集:プラスチック汚染・脱プラスチック
- 世界で広がる脱プラスチックの動き(原田禎夫)
- プラスチック問題に関する国内外動向と俯瞰的理解
─混乱する議論の解きほぐしから始める問題との向き合い方─(田崎智宏) - 欧州の生協におけるプラスチック削減の取り組み(佐藤孝一)
- トッパンのサステナブルパッケージソリューション(川田 靖)
- 脱プラスチック社会の実現に向けたコープこうべの取り組み(鬼澤康弘)
- 生活クラブのグリーンシステム(山本義美)
- プラスチックがもたらす生活革命 いかに仕組みをつくれるか(小松遥香)
- 新型コロナウイルスへの各国生協の対応⑤
- 協同組合・相互扶助の保険組織とCOVID-19(下)(小塚和行)
- フィンランドの生協とCOVID-19(鈴木 岳)
- 本誌特集を読んで(2020・7)
- (嶋田順一・林 薫平)
- 新刊紹介
- 幡谷則子編『ラテンアメリカの連帯経済』(鈴木 岳)
- 柏井他編『西暦二〇三〇年における協同組合』(鈴木 岳)
- 研究所日誌
- 公開研究会「人生100年時代の老後資金と資産運用」(9/29・四ツ谷)
- 公開研究会「労働者協同組合を学ぶ」(10/15・四ツ谷)
- アジア生協協力基金「2021年度・助成金一般公募のご案内」