生活協同組合研究 2020年5月号 Vol.532
日本の森林をどう育てるか?─私たちのくらしと森林、木材
近年台風や豪雨による土砂崩れ・洪水などの災害が発生した時に森林管理の重要性が話題になったり、地球温暖化などの環境問題との関係で森林保護への関心が高まったりしている。SDGs(持続可能な開発目標)では、森林の多面 的な機能に注目しその適切な維持・管理は多くの目標達成に貢献していくと考えられている。ところで、私たち(一般市民)は、日本の森林資源の現状、それを育成している人々のこと、森林管理と木材をめぐる経済などについて、どれほどの知識があるだろうか? 森林の持続的な維持管理を考えると、環境保護の側面だけでなく、木材としての市場流通のメカニズムやマーケットの育成も不可欠の要素だ。木材としての価値を高めそれを活用することについても、 市民の理解と関与が大事ではないだろうか?
今回の特集では、日本の森林がどうなっているのか、今後の課題は何かを知り、市民としてどう関われるのか、何ができるのかを考えてみたい。
堀氏は、日本の林業と森林管理の現状と課題について、担い手の観点からの考察を述べている。日本の人工林面積の半分以上が収穫可能な樹齢になってきているが、森林所有者への利益還元の仕組みはどうなっているのか、林業と森林管理の担い手である林家と森林組合の役割と課題は何かを論じている。
長野氏は、SDGs と森林の関係、特に木材利用がどのような効用をもたらすのかを紹介し、林野庁が進めている「ウッドチェンジ」(他の資材から木材 に変えていく取り組み)の具体的事例を紹介している。
赤堀氏は、日本の森林資源の生産量が増え、木材自給率が上昇しているにもかかわらず、山林所有者の所得が低迷していること、その要因が木材価格の低迷にあることを指摘し、目先のコストだけに目を奪われるのではなく持続的な山づくりへの取り組み、木材の品質向上の施策の重要性を論じている。
佐々木氏は、温室効果ガスの排出抑制に対する都市の木造木質化の有効性について、主要材料の製造時の二酸化炭素排出量、建物のライフサイクルにおける木質化の効果を試算して考察した。そして我が国の森林資源は都市の木造木質化の要求に応えることができるのかについて論じている。
早瀬氏は、森林資源の有効活用、森林所有者への利益還元をめざす森林組合の取り組み(森林認証取得推進、間伐材製品の普及、SDGs 達成に向けた活動)を紹介している。
コラムでは、コープさっぽろの「未来(あした)の森づくり基金の取り組み」と大学生協の「JUON NETWORK」の活動を紹介した。
書評の『ローカルベンチャー』に書かれている岡山県西粟倉村での森という資源を生かす村と若い世代のとりくみも参考になるだろう。
SDGs、少子高齢化と人口減少、そして現下の新型コロナウィルス問題な ど、今時代が大きくかつ劇的に変化しようとしている。この特集の論稿が私たち(一般市民)の立場から、自らのくらし、生き方、社会経済の在りようを考える参考になることを期待したい。
(小塚和行)
主な執筆者:堀 靖人、長野麻子、赤堀楠雄、佐々木康寿、早瀬悟史、柿澤宏昭、鹿住貴之
目次
- 巻頭言
- 「肥満」には理由がある(中西 徹)
- 特集 日本の森林をどう育てるか?─私たちのくらしと森林、木材
- 日本の林業と森林管理の現状と課題 ─担い手問題を考える─(堀 靖人)
- 森林保全と木材利用の循環構築を目指して ─みんなでウッド・チェンジ─(長野麻子)
- 木の価値を高めて林業を元気にする(赤堀楠雄)
- 都市の木質化における環境効果と森林資源のポテンシャル(佐々木康寿)
- 持続可能な森林管理と利用を目指して ─森林組合の活動─(早瀬悟史)
- コラム1 コープさっぽろ 未来の森づくり基金の取り組み(柿澤宏昭)
- コラム2 森をめぐる体験・交流・応援の活動 ─JUON NETWORKの取り組み─(鹿住貴之)
- 連載 協同組合系研究所の逐次刊行物より⑭
- 『城南総合研究所 調査報告書』(菰田レエ也)
- 新型コロナウイルスへの各国生協の対応
- イギリスの生協とCOVID-19(天野晴元)
- スイスの2大生協とCOVID-19(鈴木 岳)
- 研究と調査
- 奈良県川上村「かわかみらいふ」によるくらし続けることの できる地域づくり ─ならコープと協働したソーシャルビジネス─(渡部博文)
- 本誌特集を読んで(2020・3)
- (見市紀世子・小林由比)
- 書評
- 牧 大介『ローカルベンチャー ─地域にはビジネスの可能性があふれている』(中島智人)
- 研究所日誌
- 『生協総研レポート』No.92(2020年3月)刊行のご案内