刊行物情報

生活協同組合研究 2020年2月号 Vol.529

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保育・教育の無償化と子育て支援の変化

 本号では、2019年の10月から実施された「幼児教育・保育の無償化政策」(子育て支援との連結を重視するため保育・教育というタイトルである)の内容と子育て支援全体に与えるインパクトや制度変更、生協や地域活動にも影響を及ぼすことがら、を取り上げ5人の論者で構成している。商品の購買事業だけではなく、ケア労働・サービスの購買事業(福祉領域といわれる)も手掛けている生協が近年微増している。「子どもを育てる」生活において、保育も教育も不可欠なサービス体系の1つである。

 子育ては、子どもの成人を一区切りにしたとしても、親・保護者にとっては「達成した」と感じるには時間がかかる、長大なプロジェクトである。発達段階に応じた大小の課題が次々と毎日発生し続け、親のほうも経験を積み重ねていくが、これを長期に楽しむには現代では家族や親の負担が重すぎる状況がある。子育てを少しでも分かち合い、支援できる場である「保育所」や「地域子育て支援」について、いよいよ社会がサポートに回るよ、と経済的政策を提示してきたことについて、論者たちに考えていただいた。

 中山氏は近著のなかで無償化にはやや批判的な視点を残しつつ、本誌の論考ではコンパクトに保育の無償化が誰のためにどうなされるか、提示いただいた。当研究所の研究会で長く座長を務めていただいた相馬氏は、「地域子育て支援」の制度的変遷と、保育の無償化の連関を解説いただき、「福祉・保育・地域子育て支援と全体でこの領域の労働を底上げすることが、日本の福祉レジーム転換の鍵を握ると考える」という。大いに賛同するところである。小田巻氏は若手の気鋭研究者であるが、日本の女性も北欧並みに労働参画する時代を予見し、当事者協同組合型の地域の子育てが参考になることを指摘いただいた。近本は、若年層組合員のニーズは高いにもかかわらず、なぜ日本社会・協同組合は子育て労働に無関心なのか、考察している。渡部氏は、近年子育て支援への視点を深め、行政からの保育事業を受託したコープおおいたの事例をみながら、各地の生協でもできないことはないと分析する。

 生協は市町村行政との連携が手薄であったが、高齢者福祉・介護の領域に続き、子どもの養育・発達保障というケアのニーズに今後応えられるのだろうか。養育者たちが心から望む「質の高いケア労働」にアプローチすることができるのか、ぜひ考えながら、論考を読んでいただけると、人口減少下でのソーシャルビジネスを構築する方向でアイデアが生まれるのではないか、と考えている。

(近本聡子)

主な執筆者:中山 徹、相馬直子、小田巻友子、近本聡子、渡部博文

目次

巻頭言
「生」を「共」にする(神野直彦)
特集 保育・教育の無償化と子育て支援の変化
幼児教育・保育無償化のとらえ方と抜本的改善の方向性(中山 徹)
子育ての社会化と支援の進行:家族主義と福祉レジーム転換(相馬直子)
専業主婦のいない?スウェーデンの就学前教育と協同組合(小田巻友子)
子育て支援の大きな領域としての保育 ─日本の消費生活協同組合が保育事業に踏み出せないのはなぜか─(近本聡子)
コープおおいたの子育て支援事業 ~認可保育園と学童クラブの運営~(渡部博文)
連載 フォーカス くらしと社会の最新事情⑪
スマホではなく、生活を変える5G(吉田健太郎)
連載 協同組合系研究所の逐次刊行物より⑪
『いのちとくらし研究所報』 (石澤香哉子)
継承・発信 平和の取り組み⑤
被爆体験証言集『つたえてください あしたへ……』 第25集の発刊にあたり(後藤誠治・原田健二郎)
残しておきたい協同のことば(追補版3)
ホセ・マリア・アリスメンディアリエタ(鈴木 岳)
本誌特集を読んで(2019・12)
(元山鉄朗・丸山千賀子)
研究所日誌
「人生100年時代の老後資金と資産運用」(3/3・東京)
「生協総研賞・第16回助成事業論文報告会」(3/6・東京)
「生協社会論」受講生募集