生活協同組合研究 2019年12月号 Vol.527
消費者庁・消費者委員会創設から10年
消費者庁と消費者委員会が2009年9月に創設されてから10年が経った。当時、生協を含む消費者団体は、消費者庁には縦割り行政の弊害の是正と消費者行政の司令塔機能の発揮を、消費者委員会には監視機能の十分な発揮をそれぞれ期待した。「小さく産んで大きく育て」たいと10年間見守ってきた消費者の目に、消費者行政の現状はどのように映っているのであろうか。
消費者庁長官(2012年8月~2014年8月)を務めた阿南久氏には在任時の主要施策を、消費者庁のサポーター・ファンを増やす取り組みや庁内での改革の取り組み、生協への要望などと併せて紹介いただいた。
消費者委員会(第2次~第4次)委員長を務めた河上正二氏には、「消費者法の来し方・行く末」について、様々な論点から解説いただいた。
千葉惠美子氏には、産業全体のデジタル化による消費生活基盤の変化に対応し、時代を先取りした消費者政策を今後展開する上での課題をお示しいただいた。
磯辺浩一氏には、消費者裁判手続特例法制定に至る経過、消費者団体訴訟制度(被害回復)の活用状況と制度改善課題について解説いただいた。
拝師徳彦氏には、「全国消費者行政ウォッチねっと」が毎年公表している行政評価をもとに、消費者庁創設の成果が実感できない4要因を挙げていただいた。
2019年9月26日には、岩手、東京、大阪の6つの消費者団体にご参加いただき、「消費者庁・消費者委員会に期待を込めて物申す」と題した意見交換会を開催した。厳しい現状評価は示されたが、最後には、消費者団体との協働の視点で来る10年の消費者行政への期待も寄せられた。
国際的な消費者課題の視点も忘れることはできない。コラムでは、国際消費者機構(Consumers International)が主催した本年5月の第21回世界大会と、消費者庁が主催した本年9月の G20消費者政策国際会合を紹介している。
本誌では、2009年10月号で「21世紀型消費者政策と消費者団体・消費者庁」をテーマに特集を組み、今回改めて、消費者庁・消費者委員会創設から10年間の消費者行政・消費者運動をふり返り、来る10年に向けて消費者視点で問題提起をすべく特集を組んだ。消費者の期待に違わない消費者政策が、幅広いステークホルダーとの協働によって、着実に推進されていくことを願って已まない。
(中村良光)
主な執筆者:阿南 久、河上正二、千葉惠美子、磯辺浩一、拝師徳彦、鶴田 健、有田芳子
目次
- 巻頭言
- 市民社会と政府(中島智人)
- 特集 消費者庁・消費者委員会創設から10年
- 消費者庁と「消費者市民社会」の形成──消費者庁創設10周年に寄せて── (阿南 久)
- 消費者法と消費者政策──この10年を振り返って──(河上正二)
- デジタル社会における消費者政策の課題──時代の変化に対応した政策立案をめざして──(千葉惠美子)
- 消費者裁判手続特例法制定に至る運動と現在の到達点。今後への期待 (磯辺浩一)
- 消費者庁10年の行政評価(拝師徳彦)
- 意見交換会「消費者庁・消費者委員会に期待を込めて物申す」
- コラム1 デジタル革命の中心に消費者を──第21回国際消費者機構世界大会の参加報告──(鶴田 健)
- コラム2 G20消費者政策国際会合(9/5~6 於・徳島)傍聴報告(有田芳子)
- 連載 フォーカス くらしと社会の最新事情⑨
- SDGs達成のための財源として注目される「国際連帯税」(柳下 剛)
- 連載 協同組合系研究所の逐次刊行物より⑨
- 『地域と協同』(鈴木 岳)
- 継承・発信 平和の取り組み④
- 次の世代に被ばく・戦争体験を継承する(野村泰史)
- 本誌特集を読んで(2019・10)
- (大木 茂・川口啓明)
- 研究所日誌
- 公開研究会「キャッシュレス社会と流通・金融の未来」(1/15)