生活協同組合研究 2019年11月号 Vol.526
生協の共済を取り巻く事業環境
生協の共済を取り巻く事業環境として少子高齢化、人口減少、単身世帯の増加、格差や貧困・社会的孤立の拡大、気候変動による自然災害の多発、デジタル技術の進展、海外からの共済規制要求等があげられる。こうした変化に対応して、生協の共済は高齢者のニーズに対応した商品開発、加入年齢の引上げ、引受基準緩和型商品の開発等を実施するとともに、被災地支援や防災・減災の活動、助成活動による地域共生社会づくりへの貢献、地域での健康づくりの活動への支援といった取り組みに着手している。
今回の特集は、これらの環境変化に生協の共済事業がどのように対応していくかを考える上で参考となる論稿を集めた。
藤川太氏の論稿では「社会問題の解決に取り組むことができるのが共済」として「健康寿命を延ばす仕組み」「生協による老後生活の総合的な支援」のイメージが示されている。
小泉武彦氏は社会の変化に対応した「孤独死保険」「健康年齢により保険料が変動する保険」といった少額短期保険会社における独創的な商品開発を紹介している。
松岡博司氏は米国と日本は世界の二大生保市場であり、米国生保は新たな市場トレンドや先端的な動きをチェックするために目が離せないとしている。
植村信保氏はバブル崩壊後の株価の低下や金利水準の低下、不良債権問題といった変化に対応できなかった生命保険6社の破綻要因について、健全性規制の機能不全という視点から論じている。
武田俊裕氏は協同組合に対する国際的な評価や期待と協同組合らしい事業活動の実践、組合員の参画、SDGs への取り組みの重要性を論じている。
コラムでは渡辺恵輔氏がパルシステム共済連における「たすけあい活動委員会」のTPP協定に関わる学習会の取り組みを紹介し、組合員が共済と保険の違いを学び生協の活動に参加することの重要性をレポートしている。
酒井健氏は新ブランド「こくみん共済 coop」が「取り巻く環境の変化に柔軟に対応した新たな事業と運動を展開することと、その変革の決意の表れとして」スタートしたことを紹介している。
本特集が生協の共済事業を取り巻く環境変化と対応について考えるための示唆となれば幸いである。
(渡部博文)
主な執筆者:藤川 太、小泉武彦、松岡博司、植村信保、武田俊裕、渡辺恵輔、酒井 健
目次
- 巻頭言
- プラットフォーマーと協同組合(小栗崇資)
- 特集 生協の共済を取り巻く事業環境
- 人生100年時代のライフプランと共済(藤川 太)
- 新しい保険業態「少額短期保険」発展の原動力とは ~経営面・商品開発面の特色~(小泉武彦)
- 米国生保市場の状況(松岡博司)
- 生命保険における健全性規制の動向と保険会社の対応状況(植村信保)
- 協同組合共済をめぐる環境変化と対応(武田俊裕)
- コラム1 パルシステム共済連『たすけあい活動委員会』の取り組み(渡辺恵輔)
- コラム2 私たちの使命と想い ~新ブランド「こくみん共済 coop」の策定~(酒井 健)
- 連載 フォーカス くらしと社会の最新事情⑧
- 消費税増税直前の消費者意識(中村良光)
- 連載 協同組合系研究所の逐次刊行物より⑧
- 『参加システム』(三浦一浩)
- 海外情報
- フランスにおける新たな協同組合運動 ─各地で設立される「労働参加型生協」の店舗─(鈴木 岳)
- 本誌特集を読んで(2019・9)
- (奈良由美子・山田香織)
- 新刊紹介
- 和田武広著『共済事業の源流をたずねて 賀川豊彦と協同組合保険』(中林真理子)
- 研究所日誌
- 公開研究会「キャッシュレス社会と流通・金融の未来」(1/15)
- 2019年度生協総研賞・助成事業の対象者を決定
- 2019年度生協総研賞 第12回「表彰事業」受賞式のご案内(12/11)