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生活協同組合研究 2019年6月号 Vol.521

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日本農業の現在地を把握する

 近年の社会情勢の変化は目まぐるしい。少し前には当然のように思われていた考えも、現在では時代遅れのようになってしまうことも少なくない。さらに、社会が急速に発展していく中で、その変化に関する膨大な情報が提供され、それらすべてを把握し、検討し、理解し、取捨選択していくことが難しくなっている。

 農業分野においても、とりまく環境は大きく変化しており、現状を少しでも把握できるような特集が必要であると考えられた。そこで、本特集では、下記の5つの観点から日本農業の現在を把握できるような原稿を集めている。

 観点の1つ目は「政策」として、植田稿では近年の農業の競争力強化を目的とした政策の整理をして頂いた。強い農業を創る、という方向で進められる近年の農業政策であるが、1999年の食料・農業・農村基本法とはかい離する部分があるなど、農業政策が転換しつつある状況が指摘されている。

 観点の2つ目は「貿易」として、齋藤稿では農産物貿易の近年の動向とその影響について考察頂いた。貿易の影響について理論的な解説をしながら、日本政府、EU、研究者によるメガ FTA の影響の試算結果についても触れている。

 観点の3つ目は「技術」として、窪田稿では農業分野における AI・ロボットの試用・活用事例を紹介して頂いた。実際に試用・活用した生産者の意見等を踏まえながら、今後の日本農業における AI・ロボットの普及可能性等が示されている。

 観点の4つ目は「消費」として、川口稿では現在まで続く日本人の国産志向の要因について考察頂いた。何故、日本人は国産の食品を求めるのか、ということを考察しながら、この志向が今後も続くのか、改めて検討している。

 観点の5つ目は生協と直接関係する「生協産直」として、筆者が2018年の第10回全国生協産直調査のデータを元に、生協産直の交流・コミュニケーションの現状について考察している。交流・コミュニケーションは生協産直の重要な特徴でありながら、十分な広がりを持てていない要因について分析した。

 もちろん、農業の現在地を把握するために必要な観点は、労働・雇用、流通などまだまだ考えられるが、これらはまた別の機会にまとめさせて頂ければと思う。本特集が、日本農業の近況を理解する一助になれば幸いである。

(宮﨑達郎)

主な執筆者:植田展大、齋藤勝宏、 窪田新之助、 川口啓明、 宮﨑達郎

目次

巻頭言
「競争」と「協同」 ─独占禁止法における協同組合の立ち位置─(山部俊文)
特集 日本農業の現在地を把握する
近年の競争力強化を目的とした農業政策について(植田展大)
農産物に関わる貿易自由化の動向とその影響(齋藤勝宏)
AI・ロボットが変える日本農業の未来(窪田新之助)
日本人の農産物の国産志向はどこまで続くか(川口啓明)
生協産直の交流・コミュニケーションを改めて考える ─第10回全国生協産直調査の結果より─(宮﨑達郎)
海外情報
カナダ・ノーウェスト医療生協調査報告(山崎由希子)
連載 フォーカス くらしと社会の最新事情③
食品○○で健康になれるか? 「日本人の食事摂取基準」で考える(児林聡美)
連載 協同組合系研究所の逐次刊行物より③
『農林金融』(三浦一浩)
本誌特集を読んで(2019・4)
(前田裕保・新里宏二)
新刊紹介
早瀬 昇『「参加の力」が創る共生社会』(中村良光)
私の愛蔵書
都築忠七『エリノア・マルクス 1855-1898』(鈴木 岳)
研究所日誌
公開研究会「吉野共生プロジェクト」(8/20・東京)
全国研究集会(10/5・東京)開催予告
生協総研賞第17回助成事業のご案内
食習慣チェック(BDHQ-Webシステム)取り組み開始