生活協同組合研究 2019年4月号 Vol.519
生協の生活相談・貸付事業の広がり
2007年の生協法改正により組合員に対する貸付事業が法律上に明文化された。当時の内閣に設置された多重債務者対策本部で作成された「多重債務問題改善プログラム」の中でも生協は「相談・セーフティネット貸付の担い手」の一つとして期待された。その後、日本生協連は貸付事業で先行する生協からの要請を受けて「生協における多重債務相談・貸付事業研究会」を2010年10月に設置し、2011年9月に「生協として多重債務/生活困窮相談・貸付事業に取り組むことを積極的に検討すべきである」との結論をまとめた。その後、「地域購買生協における『生活相談・貸付事業』の事業モデル構築調査・研究」が開始され、生協の生活相談・貸付事業を普及する上での課題と対応策がまとめられた。
生協の生活相談・貸付事業は消費者信用生協(1969年に岩手県消費者信用生協として設立)、グリーンコープ(2006年グリーンコープふくおかが事業開始)、生活サポート基金(生活クラブ生協(東京)とパルシステム連合会の支援を受けて2006年事業開始)が先行していたが、2013年9月にみやぎ生協、2015年4月に生活クラブ生協(千葉)が新たに事業を開始した。また、2015年に施行された生活困窮者自立支援法による家計改善支援事業が自治体の任意事業として位置付けられ、生協による家計改善支援事業の自治体からの受託もスタートした。
本誌の前回の生活相談・貸付事業の特集である2012年3月号「多重債務相談・貸付事業研究会を終えて」から7年が経過したが、今回はそれ以降のみやぎ生協、生活クラブ(千葉)での事業開始や家計改善支援事業の受託といった新しい取り組みに焦点を当てるとともに、協同組織の金融機関である労働金庫の多重債務問題等への取り組みに関する論稿も掲載した。
非正規雇用の増加などにより賃金が伸びない中で、金融資産の無い世帯の割合が増加し、教育費等の負担も重くなっている。渡邉論文ではこのような社会状況の中でみやぎ生協が生活相談・貸付事業に取り組む意義を「貧困と格差の拡大、そして東日本大震災で大きな痛手を受けた今日のくらしの困難を解決するため」と論じている。角崎論文では「生協の生活相談・貸付事業は、低所得者、生活困窮者等の金融福祉にとって重要な事業であり、生協はそれを効果的に実施する力がある。」と論じている。
今回の特集が生協の生活相談・貸付事業がさらに広がっていくための参考となれば幸いである。
(渡部 博文)
主な執筆者:重川純子、角崎洋平、佐藤順子、上田正、渡邉淳、依知川稔、塩原洋光
目次
- 巻頭言
- 決まりごとが通用しない(生源寺眞一)
- 特集 生協の生活相談・貸付事業の広がり
- 家計の経済的困窮と社会的孤立の解消 ──包摂する地域社会に向けて──(重川純子)
- なぜ生協が生活相談・貸付事業に取り組むのか ──低所得者・生活困窮者等の金融福祉の観点から──(角崎洋平)
- これからの家計改善支援事業を展望する(佐藤順子)
- 生協の生活相談・貸付事業を取り巻く事業環境と事業課題(上田 正)
- 生活相談・貸付事業から見えたくらしと家計の課題と生協の役割(渡邉 淳)
- 生活クラブ生協(千葉)の生活相談・家計再生支援貸付事業(依知川 稔)
- 労働金庫の多重債務問題等の取り組み(塩原洋光)
- 連載 フォーカス くらしと社会の最新事情①
- 教育費をめぐる最新動向 ~日本生協連「家計・くらしの調査」から(大部桂一)
- 連載 協同組合系研究所の逐次刊行物より①
- 『協同組合研究誌 にじ』(鈴木 岳)
- 本誌特集を読んで(2019・2)
- (小野修三・中久保邦夫)
- 研究所日誌
- 総目次(2018年5月号~ 2019年3月号)