刊行物情報

生活協同組合研究 2019年3月号 Vol.518

次の生協リーダーに知ってほしい『震災』の本当の話

 昨年暮れ、映画「シン・ゴジラ」がテレビ放映されているのを見た。冒頭の河田論文を読んでいる時、映画のシーンが次々に浮かんできた。ゴジラに破壊され、傾いたマンションの部屋を滑るように移動する家具、ゴジラが吐く炎で燃え盛る町、避難する人々の車で大渋滞する道路。ゴジラを攻撃するために突進して、脱線して壊れる新幹線や電車。首都直下地震の最悪シナリオを見る気がした。

 今月の特集は、首都直下地震と南海トラフ地震に焦点を当てた。河田論文や福和論文にある通り、両震災の影響はかつてないほど深刻なものとなる可能性が高い。首都直下地震は首都機能を喪失させ、南海トラフ地震は、日本の産業、つまり経済に壊滅的なダメージを与える恐れがある。昨年、土木学会が発表した試算では、これらの災害に何ら対策を講じなければ、日本は最貧国に転落すると警告している。

 残念ながら、これらの震災が起きることを防ぐことはできない。私たちにできることは、「縮災」「減災」しかない。福和論文のタイトル「着眼大局・着手小局」にあるように、自分たちのできることを着実に実行していくほかはない。鍵屋論文、武田論文、大見論文や横須賀のマンション「ソフィアステイシア」の例は、それぞれの「局」でどんな取り組みが必要かを教えてくれる。大震災が起きた際、組合員の暮らしを守るため、生協がなすべきことはたくさんあるが、組合員が自分の命と暮らしを守るための備え、自助を促す啓発活動が大切だと思う。こうした活動が地道にできるのが生協だと考える。

 堀井論文は、防災教育について論じている。地震に限らず、これだけ災害の多い国で、子どもたちを守る防災教育がきちんと行われていないことを、多くの人がこれまで不思議に思ってこなかった。大切で基本的なことが教えられず、代わりに思いつきのような教科が学校現場に導入されるのを見ると、教育も子ども本位ではなく、結局は利害なのかと思えてくる。

 今月の特集タイトルは、ことさらに「次の生協リーダー」と謳っている。理由は、これから10年、20年先のリーダーは、巨大震災に直面する可能性がきわめて高いと考えるからだ。東京オリンピックの2年後、2022年は関東大震災から100年になる。特集の筆者たちが指摘している通り、巨大震災が「必ず来る」ことを前提に、次のリーダーは生協の未来や組合員の暮らしのために、何が必要か、何をすべきかを考え、行動していくことが求められる。そして、その日まであまり時間がないことを、次の生協を担っていく世代にこの特集を通して知ってもらえたら幸いである。

(白水 忠隆)

主な執筆者:河田惠昭、福和伸夫、鍵屋 一、武田賢治、堀井宏悦、大見英明、白水忠隆

目次

巻頭言
ポストSDGs:西暦2030年後の世界は持続可能か(湯本浩之)
特集 次の生協リーダーに知ってほしい『震災』の本当の話
巨大震災の最悪シミュレーション(河田惠昭)
着眼大局・着手小局で災い転じて福となす(福和伸夫)
死者ゼロを目指す地域防災戦略 ─国難災害から命を「守る」、「つなぐ」、「再生する」ために─(鍵屋 一)
超巨大地震に向けて生協が、今、なすべき課題(武田賢治)
平成の終わりに考えたい防災教育の意義(堀井宏悦)
臨機応変─北海道胆振東部地震から学ぶ(大見英明)
コラム マンションを防災コミュニティに ─横須賀・ソフィアステイシア─(白水忠隆)
海外情報
ビルバオ2018GSEF大会とエロスキの小報(鈴木 岳)
時々再録
名古屋大学に減災館あり!(白水忠隆)
本誌特集を読んで(2019・1)
(伊藤剛寛・佐藤大樹)
研究所日誌
公開研究会
「東京都の地域経済と生協組合員のくらし」(3/13・中野)
「第2次2050研究会からの構想」(3/19・青森)
「最新の全国生協組合員意識調査からみえる生活変動」(3/26・四ツ谷)
「生協と社会論」受講生募集
アジア生協協力基金2019年度助成事業計画決定のお知らせ