生活協同組合研究 2019年2月号 Vol.517
葬儀の変容とライフエンディング─お葬式の意味を考える
少子高齢化、単身世帯の増加など社会の変化が進む中で、「家族葬」「直葬」などの小規模化・簡素化や、宗教・宗派離れ、散骨・樹木葬など遺骨の取扱い・お墓の位置づけの変化など、葬儀の様相が大きく変化している。葬儀の形の変化とともに、死者の「見送り」や「死」に対する考え方も変化してきているように思われる。
本誌では2013年7月号で特集「人生の終焉、いま葬祭をめぐって」を企画した。それから5年を経て、葬儀の形や葬祭業界はどう変わったのか、消費者は葬儀についてどのように考えているか、生協の葬祭事業はどのような取り組みをしているかなどに関する論稿を特集し、死者の「見送り」「死をどのように迎えるか」を考察する一助としたい。
山田慎也氏は、葬送、墓制、死後の法要や追悼などの変容について詳細に紹介し、その変化を葬送の「個人化」の進展と表す。人々が安心して死を迎え尊厳をもって葬送されるためには、かつての「家」や家族制度といった血縁を超えた社会的関係の構築が求められていると提起する。
唯根妙子氏は、日本消費者協会が実施している「葬儀のアンケート調査」から葬儀の形態、実際の葬儀費用、葬儀に対する消費者の意識などを紹介する。回答者の自由記入から逝く側の高齢者には家族に迷惑をかけたくないという気持ちがある、ということを読み取っている。
松本優輝氏には、葬祭業者の立場から、最近行われている家族葬や直葬などのメリット・デメリットを整理するとともに、葬儀で後悔しないために必要なことは何か、見送られる側、見送る側の双方にとって葬儀の役割・意味は何かについて述べていただいた。
小泉武彦氏には、少額短期保険協会の「孤独死現状レポート」から孤独死の実像を報告いただいた。「孤独死は高齢者だけの問題ではない」ことを明らかにし、孤独死の背景には現代社会における孤立と貧困があり、この問題の原因究明と対策構築は社会政策上、喫緊の課題であると提起する。
小塚論稿では、全国の地域生協が展開している葬儀事業の現状と課題を報告した。生協の葬儀事業の概要について公表されたものはこれまでほとんどなかったので、今後の方向性や課題を考えるうえで参考になるだろう。
コラムでは、金田和子氏に、東都生協でのエンディングノート書き方セミナーを紹介いただいた。また、イギリスの生協と韓国の協同組合による葬儀事業の報告を掲載した。イギリスの生協の葬儀事業は歴史も古く国内でトップのシェアを持つ。消費者や組合員の意識・ニーズの変化に対応して、様々な取り組みをしている様子が報告されている。韓国では、消費者が既存の葬儀業者の営利主義に対抗して新しい葬儀の協同組合を設立し、組合員の共同による新しい葬儀文化を作ろうという取り組みが行われている。
特集の論稿が、「葬式」の意味を改めて考える参考になれば、幸いである。
(小塚和行)
主な執筆者:山田慎也、唯根妙子、松本勇輝、小泉武彦、小塚和行、金田和子、佐藤孝一、金京煥
目次
- 巻頭言
- おまかせデスから私のデスへ(樋口恵子)
- 特集 葬儀の変容とライフエンディング─お葬式の意味を考える
- 高齢化社会における葬儀の変容と共同性の探究(山田慎也)
- これからの葬儀を考える ─葬儀のアンケート調査結果にみる葬儀の実態と消費者意識─(唯根妙子)
- お葬式をする意味は何か ─葬儀の現場から「いのち」のつながりを考える─(松本勇輝)
- 孤独死の実態を知る ─「孤独死保険」の支払いから見えてきたこと─(小泉武彦)
- 広がる生協の葬祭事業 ─生協の総合力でライフエンディング・サポートの構築めざす─(小塚和行)
- コラム1 東都生協の「エンディングノートの書き方セミナー」 ─これからの人生をより良く生きるために─(金田和子)
- コラム2 イギリスの生協の葬祭事業(佐藤孝一)
- コラム3 協同で創る新しい葬儀文化 ─ハンギョレドゥレ協同組合の取り組み─(金京煥)
- 時々再録
- 余所がやらないことをやる(白水忠隆)
- 本誌特集を読んで(2018・12)
- (白鳥和生・勝山暢夫)
- 研究所日誌
- 公開研究会
- 「社会的連帯経済の最新事情」(2/25・東京)
- 「第2次2050研究会からの構想」(3/19・青森)
- 「東京都の組合員のくらしと変化」(3/13・東京)
- 「子育て期女性組合員の大激変」(3/26・東京)
- 「全国生協組合員意識調査」分析報告会を開催しませんか!
- 生協総研賞・第15回助成事業論文報告会(3/8・東京)