刊行物情報

生活協同組合研究 2018年8月号 Vol.511

地域の居場所

 神奈川県相模原市に地域の居場所「きらくクラブ」がある。「きらくに交流できる場所づくり」を目的に15人のボランティアの方が食事会、体操教室、キルト作り、子ども食堂など、週3~5回の多彩な活動をしている。この「きらくクラブ」の立ち上げの後方支援をした地域包括支援センターのコーディネーターの方に話をお聞きする機会があった。

 市から委託を受け地域包括支援センターの仕事をする中で駅の近くのマンション等で暮らす一人暮らしの方の「孤独」に気付かされた。地方から地縁や血縁の無い都会に来て働いてきたが、高齢になり自分の力で外出し人と交流することが難しくなった。一人で生活はできるが1日中誰とも会話しない、食事もテレビの前で一人で済ませる。そういった高齢者の「孤独」を「なんとかしなくてはいけない」と思ったそうだ。

 人とお喋りをして一緒に食事をすることで人は元気になるし介護の予防にもつながる。しかし現在の制度では「孤独」そのものは福祉や介護のサービスの対象ではない。それならば、デイケアの施設で決められたメニューをこなすような場所ではなく、友人の家のようにくつろいで過ごすことのできる居場所を自分たちで作ろうと考えた。家賃の支払いは大きな負担だが、私が訪れたときは2DKのアパートで、近所に住む10人ほどの高齢者の方々がボランティアのメンバーに声を掛けられながら食事をしキルト作りをして過ごしていた。

 今月号はこのような「地域の居場所」をテーマに研究者や居場所の運営に関わっている方々から論稿をお寄せいただいた。石田光規氏には多摩市のコミュニティセンターを事例とした地域社会の分断と再生のための方策について、藤井博志氏には地域福祉拠点としての居場所について行政や自治会等の関与のあり方や生協への期待も含め論じていただいた。佐藤洋作氏には若者の居場所とその背景にある若者の生きづらさについて、上野谷加代子氏には地域共生社会をどのように創り育てていくのかについて論じていただいた。コラムではエフコープ生協の「地域活動の場」、いばらきコープの「ほペたん食堂」の実践を紹介している。池田昌弘氏からは地域の「日々の暮らしの中にある人間関係の大切さ」を整理していただいた。

 全国では多くの個人や任意の団体、NPO、社会福祉協議会、生協等が様々な試行錯誤をしながら居場所づくりに取り組んでいる。今回の特集が少しでも居場所づくり取り組みの参考となれば幸いである。

(渡部 博文)

主な執筆者:石田光規、藤井博志、佐藤洋作、上野谷加代子、沖 一郎、渡部博文、池田昌弘

目次

巻頭言
地域の「居場所」考~その光と影とその先へ~(小林新治)
特集 地域の居場所
都市近郊における地域社会の分断と再生(石田光規)
地域福祉拠点の形成と地域共同ケアの推進(藤井博志)
子どもや若者の居場所づくりの意味(佐藤洋作)
たすけられ上手・たすけ上手の地域づくり、地域育て(上野谷加代子)
コラム1 エフコープ「地域活動の場」のめざすもの(沖 一郎)
コラム2 いばらきコープが社会福祉協議会・JAと連携し運営する「ほぺたん食堂」(渡部博文)
コラム3 今こそ、地域支え合いを考える(池田昌弘)
研究と調査
NPO法人くらし協同館なかよしの取組──「ふれあい」「生きがい」「支えあい」──(薬師寺哲郎)
時々再録
きつきのきづき─大分県杵築市の地域再生(白水忠隆)
本誌特集を読んで(2018・6)
(山下福太郎・天野恵美子)
新刊紹介
三浦まり編『社会への投資』(山崎由希子)
研究所日誌
第28回全国研究集会のご案内(10/13)
公開研究会(9/4・京都)