生活協同組合研究 2018年7月号 Vol.510
フードバンク
約半世紀前のアメリカから始まったとされる「フードバンク」――直訳すると「食料銀行」――は、かつて総中流社会や飽食といわれる日本では関係なさそうにみえた。しかし、2002年に東京で「セカンドハーベスト・ジャパン」が設立され、さらに大原悦子氏が2008年に『フードバンクという挑戦 貧困と飽食のあいだで』(岩波書店、2016年に岩波現代文庫として文庫化)を刊行し、テレビ東京の番組「ガイアの夜明け」に取り上げられた一連の動向の中で、日本でも食品が日常的に廃棄される一方、食べることに事欠く人々の存在を少しずつではあるが一般に認識させることとなった。そしてこの豊かさ(廃棄ロス)と欠乏という矛盾した状況は、ますます今日的な課題となってきている。
さて、フードバンクの動向については、本誌でもこれまで単発的に事例を紹介している。ただ生協によるフードバンクの取り組みは、2015年度で全国15生協、それが2016年度では35生協と急増したことは、各生協もフードバンクを明らかに意識しているということであろう。今、特集として企画する時期と考える所以である。この思いをここで実現しえたのは、それぞれ第一線で携わられたり、研究されてこられた方々からの貴重な見解をいただけたからに他ならない。
日詰一幸氏からは、日本のフードバンクの状況について多面的に展開していただいた。前述の大原悦子氏には、アメリカでの取材や活動をもとに日本での現状を含めてお話を頂戴した。重厚な著作『改訂新版 食品ロスの経済学』(農林統計出版)を本年に刊行された小林富雄氏からは、フランス、韓国、イギリスなど国外での事情を主に概説していただいた。松本亨氏には福岡県内の事例をもとに食品ロスの観点からお記しいただいている。
コラムとしては、コープ東北の中村礼子氏と生協ひろしまの後藤陽一氏・重田隆氏のインタビューを掲載した。また、当所研究員・佐藤孝一からは国外生協の概況を紹介している。
さらにフードバンクの状況を知るためには、本文中にそれぞれ記されている引用文献も参照されたい。今回の特集では直接取り上げなかったが、認定NPO 法人フードバンク山梨理事長の米山けい子氏が記した『からっぽの冷蔵庫――見えない日本の子どもの貧困』(東京図書出版)、佐藤順子編著『フードバンク 世界と日本の困窮者支援と食品ロス対策』(明石書店)も最近刊行されています。
(鈴木 岳)
主な執筆者:日詰一幸、大原悦子、小林富雄、松本 亨、中村礼子、後藤陽一、重田 隆、佐藤孝一
目次
- 巻頭言
- 食品ロス統計(中嶋康博)
- 特集 フードバンク
- 日本におけるフードバンクの取り組みと課題(日詰一幸)
- フードバンクの経緯と実情(インタビュー)(大原悦子)
- 世界のフードバンクと発展の課題─機能的複合性と貧困対策─(小林富雄)
- フードバンクの有する社会的価値(松本 亨)
- コラム1 コープ東北 コープフードバンク(インタビュー)(中村礼子)
- コラム2 生協ひろしまのフードバンクの取り組み(インタビュー)(後藤陽一・重田 隆)
- コラム3 海外生協の食品ロス対策とフードバンク(佐藤孝一)
- 研究と調査
- 「協同組合保険論」の開講をめぐって(江澤雅彦)
- 時々再録
- 市役所で進むAI化(白水忠隆)
- 本誌特集を読んで(2018・5)
- (松野尾裕・田澤穂高)
- 新刊紹介
- 佐藤一子・千葉悦子・宮城道子編著『〈食といのち〉をひらく女性たち:戦後史・現代,そして世界』(三崎敬子)
- 研究所日誌
- 第16回生協総研賞「助成事業」の応募要領(抄)(7/31〆切)
- 生協総合研究所第28回全国研究集会のご案内(10/13)