生活協同組合研究 2018年6月号 Vol.509
中国のアリババから何を学ぶか
初めは、軽い気持ちだった。日本では、アマゾンの動向ばかりに目が行きがちだが、中国にアマゾンに勝るとも劣らないアリババというEC 企業があると知り、特集の企画を思いついた。その概要を知っておくことは意味があるぐらいに思っていた。
しかし、調べを進め、また今月号の各論考を読んでいくうち、圧倒されると同時に、無力感にも襲われた。田中氏が述べているように、アマゾンが小売から物流やクラウド、さらに宇宙事業まで手掛ける「エブリシング・カンパニー」となったのと同様、アリババも一EC 企業の枠を超えた「アリババ経済圏」を築き上げ、様々な分野に進出している。単に生協というだけでなく、日本企業、日本の経済はどうなっていくのかと不安になった。
とは言え、これから立ち向かっていくにしろ、付き合っていくにしろ、アリババのことをきちんと知らなければならない。その存在が大きすぎるため、どこかに焦点を絞るより、まず様々な角度から、アリババに光を当ててみることにした。
金論考は、アリババグループの構造を明らかにしたうえで、短期間に急成長を遂げた「資本戦略とビジネスモデル」を解説している。これをベースに、日本でも関心が高いアマゾンとの比較を通してアリババの存在の巨大さを描いた田中論考、アリババ創業者、ジャック・マー氏の人物像から考察した小平論考、さらに視野を広げて中国人の価値観からアリババのようなビジネスが生まれる背景を考えた中島論考を通読いただければ、巨大なアリババの正体に少しは迫ることができると思う。中国に詳しくない読者は、中島論考から始めていただければ、他論考の理解の助けになるかもしれない。
お行儀のよい視察報告にとどまらない炭谷論考からは、短い視察旅行の間に受けた刺激と危機感が伝わってくる。ぜひ、多くの生協の若い世代に読んでほしいと思う。また、コラムで京都信用金庫が地域の活性化のために、アリペイを取り入れた例を紹介している。
「アリババと40人の盗賊」の物語の中で、アリババが「開けゴマ」と叫ぶと、洞窟の中には、たくさんの宝物があった。この扉を開けて、本特集の中にも生協にとって何らかの宝があったと感じていただければ幸いだ。
(白水 忠隆)
主な執筆者:金 堅敏、田中道昭、小平和良、中島 恵、炭谷 昇、高岸達哉
目次
- 巻頭言
- 先端デジタル技術と生協共済の未来(中林真理子)
- 特集 中国のアリババから何を学ぶか
- EC帝国からニューリテーラーへ変身するアリババ(金 堅敏)
- アマゾンvsアリババ(田中道昭)
- 創業者ジャック・マーから読み解くアリババ(小平和良)
- 激変する中国のくらし・流通・社会─なぜ中国人は財布を持たないか─(中島 恵)
- 中国視察報告─IT・流通が変えるくらし─(炭谷 昇)
- コラム アリペイ決済が地域に与える可能性(高岸達哉)
- 時々再録
- SCはショッピングセンターではない(白水忠隆)
- 残しておきたい協同のことば(追補版2)
- A. F. レイドロー(鈴木 岳)
- 本誌特集を読んで(2018・4)
- (髙山昭彦・矢澤秀範)
- 新刊紹介
- 生源寺眞一 著『新版 農業がわかると、社会のしくみが見えてくる』(山梨杏菜)
- 研究所日誌
- 第16回生協総研賞「助成事業」の応募要領(抄)
- 第28回全国研究集会 開催予告(10/13)
- 公開研究会(7/9、鹿児島)のご案内