刊行物情報

生活協同組合研究 2018年5月号 Vol.508

本を読まない大学生 ~大学教育と大学生協はどう関わるか

 毎年2月、全国大学生活協同組合連合会が学生生活実態調査の結果を発表すると、マスコミは「学生の読書離れ」を一斉に報道する。本を読まない学生は小さい頃から「読書嫌い」だったのだろうか? いつ頃から、なぜ本を読まなくなったのだろうか? 本を読むことによって何が得られるのだろうか? 逆に学生時代に本を読む機会や習慣を失ったまま社会に出ていくとどうなるのだろうか?「学生の読書離れ」を一時のマスコミネタではなく、日本の社会問題や教育の問題として深く考えてみる必要があるのではないだろうか。

 今回の特集では、大学生の読書行動や読書習慣がどのように形成されたのか、大学の教育課程で求められることは何かに関する論稿をまとめた。合わせて、学生に最も近い存在である大学生協は、学生の読書にどう関わってきたのかを紹介し、大学生協の役割についても考えていくこととした。

 吉田論文は、大学生の読書離れの推移を読書調査などから概観し、筆者の大学で実践している読書体験記をもとに「読書好き・読書嫌い」がどう変化しているか、を分析する。今後の課題として、学生一人一人の実態把握とそれぞれの読書環境にあわせた具体的な読書支援が必要だと提起している。

 酒井論文は、インターネットや電子書籍が普及しているが、それが「紙の本」とどこが違うのか、筆者の専門領域である言語脳科学の視点から、読書が脳の想像力を高める働きをしていることを述べている。

 佐々木論文は、近年大学図書館が変貌し、学生の学習支援や読書支援に手厚いサービスを行っていることを紹介する。

 玉論文は、大学生協の教職員委員会が、学生の読書離れに危機感を持ち、授業をはじめ学生の生活や活動に関わる様々な場面で、それに関わる基本図書や関連図書のリストを提案し、読書を促す活動を広げていこうという「リーディングリスト運動」を呼び掛けている。

 コラムでは、大学生協連が48年間にわたって発行してきた『読書のいずみ』という読書情報誌や「読書マラソン」の取組と、大学生協書籍部からみた学生の読書傾向と各大学生協での読書推進活動を紹介している。

 今回の特集を参考に、大学の教職員、図書館関係者、大学生協の関係者の方々、そして大学生の皆さんの間で、学生時代における読書の意義について考え、議論が広がることを期待したい。

(小塚和行)

主な執筆者:吉田昭子、酒井邦嘉、佐々木俊介、玉 真之介、射場敏明、小塚和行

目次

巻頭言
アニマルウェルフェアに配慮した畜産物の生産と流通(大木 茂)
特集 本を読まない大学生~大学教育と大学生協はどう関わるか
大学生の読書事情(吉田昭子)
読書は脳の想像力を高める ─なぜ「紙の本」が必要なのか─(酒井邦嘉)
いまどきの大学図書館と大学生の読書~学生生活実態調査結果から考える~(佐々木俊介)
「リーディングリスト運動」を大学教育改革の中に(玉 真之介)
コラム1 本を媒介とした人と人のつながりを求めて ─大学生の読書活動─(射場敏明)
コラム2 書籍部の現場からみた学生の読書傾向(小塚和行)
研究と調査
競争力強化に向けて、IT・AI技術の活用と国際的連携が課題 ─国際協同組合保険連合(ICMIF)の2017年総会報告─(崔 桓碩)
時々再録
ビブリオバトルとバトルをした思い出(白水忠隆)
残しておきたい協同のことば(追補版)
F.W.ライファイゼン(鈴木 岳)
本誌特集を読んで(2018・3)
(松本浩司・林 薫平)
新刊紹介
新居格著『杉並区長日記 地方自治の先駆者・新居格』(三浦一浩)
研究所日誌
公開研究会5/19(京都会場)