生活協同組合研究 2017年7月号 Vol.498
CSV(共有価値の創造)は有効な戦略となりえるか ─生協の今後の事業展開を考える─
本特集のテーマは「 CSV は有効な戦略となりえるか」である。CSV とはCreating Shared Value の略であり,「共有価値(あるいは共通価値)の創造」と訳される。この概念は,企業の競争戦略論の第一人者であるハーバード大学ビジネススクールのマイケル・E・ポーター教授とマーク・R・クラマー研究員が,2011年に発表した論文“Creating Shared Value”(邦題『共通価値の戦略』)で提唱されたことをきっかけに広く知られるようになった。
CSV とは,企業が事業を通じて社会課題を解決することで,経済的利益と社会的価値を同時に生み出そうとするアプローチである。従来,企業が取り組む社会課題の解決は,事業との関係が薄く利益をもたらさない傾向があった。しかし CSV では,経済的利益と社会的価値の創出との間に正の相関を作り出す点に新しさがある。今回の特集では CSV の概念を紐解くとともに,CSV に取り組む企業の事例をみていく。さらに,CSV という観点から生協の今後の事業展開についても考えていくことを目的としている。
冒頭,岡田論文では CSV がいかなる経緯で提唱されてきたのか,既存の CSR とはどのように異なるのか等,理論的整理をいただいた。続いて森論文は,国内外の流通・小売業の事例から,コモディティ化する市場の中で CSV が有効な経営戦略となっているのかを検証している。横田論文は CSV 経営に伴い,社員の働き方がどのように変わるかを論じている。さらに上木原論文は,CSV を効果的にすすめるために重要な要素である企業と地域社会とのつながりについて言及している。荻野論文では,CSV の重要な要素であるパートナーシップに着目し,それを育むために何が必要かを検討している。さらに永井・上野論文では NPO と企業との協働を支援し,CSV を活性化させようとする中間支援企業の事例が紹介されている。これらの特集論文に加え,コラムではコープこうべを対象に,生協における CSV 経営の可能性を探っている。
これら特集論文から,企業が多様なステークホルダーと連携しつつ事業を通じて社会課題の解決を図ろうとしている姿が読み取れる。この時,次のような疑問が湧く。CSV が浸透してきた結果,生協と企業との差は限りなく小さくなっているのではないだろうか。協同組合という原点に立ち戻り,企業とどのように差別化していくのか。本誌が生協のこれまでの事業を振り返り,これからの事業展開を考えるきっかけとなれば幸いである。
(中村 由香)
主な執筆者:岡田正大,森 摂,横田浩一,上木原弘修,荻野亮吾,永井恒男,上野聡太,中村由香
目次
- 巻頭言
- 無形文化遺産に登録された「協同組合」と「ロバート・オウエンの手紙」(中川雄一郎)
- 特集:CSV(共有価値の創造)は有効な戦略となりえるか ─生協の今後の事業展開を考える─
- CSVに基づく新たな企業間競争(岡田正大)
- CSVは企業が未来に生き残るための有効な戦略となりえるか(森 摂)
- CSV経営と働き方・働きがいとは(横田浩一)
- 地域テーマと物語で好循環するCSV ~つなぐ経営戦略,つながる経営の観点から~(上木原弘修)
- パートナーシップを通して地域の社会関係資本と共有価値を創造する(荻野亮吾)
- 社会を発展させる新しいビジネスモデルを生む,企業とNPOの共創の可能性(永井恒男・上野聡太)
- コラム 生協におけるCSVの可能性 ~コープこうべの取り組み~(中村由香)
- 研究と調査
- 協同組合とユネスコの無形文化遺産(関 英昭)
- 時々再録
- 病院を撃つな!(白水忠隆)
- 本誌特集を読んで(2017・5)
- (長谷川敏子・小形 巧)
- 新刊紹介
- 藤森克彦著『単身急増社会の希望支え合う社会を構築するために』(三谷和央)
- 研究所日誌
- 生協総研賞
- 第15回(2017年度)生協総研賞「助成事業」の応募申請要領(抄)
- 第27回全国研究集会
- 地域における生協共済の役割とは何か
- 公開研究会(東京9/12 京都10/18)
- スイスの二大生協の歴史と現況