生活協同組合研究 2017年6月号 Vol.497
生協は若年層にとって「必要」な存在となれるか
日本生協連が実施している全国生協組合員意識調査の結果をみても明らかであるが,組合員の平均年齢は徐々に高齢化している。1994年の調査では組合員の平均年齢は44.8歳であったが,2015年調査では55.9歳となっている。
組合員の高齢化は,日本国民全体の高齢化の影響もあり,また既存組合員の維持が一定できていることの証左でもあるため,一概に問題とはいえない。ただし,新規の若年層の組合員の獲得が十分にできていないことは課題として挙げられるだろう。本特集では,生協が若年層の組合員を獲得することに寄与する知見の収集を目的として,各著者に論稿を依頼した。
特集の始まりとして,博報堂ブランドデザイン若者研究所の原田氏には,インタビュー形式にて現在の若年層の価値観や消費に関してお話頂いた。「必要でないものは全く売れない時代になる」というのはこのインタビューの中で出てくる重要な示唆である。また,若年層の価値観や消費の意識に大きく影響している点として,不景気で低成長な時代をすごしてきたこと,そして携帯電話やSNS の普及とともに育ってきたということの2点を挙げられている。
この2点については統計的な観点からの整理を2人の研究者の方にお願いした。ニッセイ基礎研究所の久我氏には若年層の経済格差と家族形成格差について,多くの公的データを利用した多角的な分析を紹介して頂いた。東京大学大学院情報学環の橋元氏には若年層の情報行動について,独自調査の結果などを利用して分析して頂いた。経済的な格差が結婚などの家族形成にどの程度影響しているのか,若年層がどのくらいの時間をインターネットやSNS に費やしているのか,“なんとなく” ではなく,定量的な指標で明確に把握することに重要な価値がある。
理論的な論稿だけでなく,実践的な論稿も特集には必要と考えた。そこで,株式会社ヤッホーブルーイングの稲垣氏には具体的なマーケティング事例として,「若者の○○離れ」に対する戦略について,自社のクラフトビールを題材に紹介して頂いた。「若者の〇〇離れ」となっている製品カテゴリのマーケティング戦略として3つの重要なポイントが指摘されている。
最後に,生協と若年層の関係に特に注目した論稿として,当研究所で実施した若年層調査の結果について拙稿で報告している。若年であっても食の関心が強い層には十分に生協は必要とされていることが確認された。
若年層の中での支持者をいかに拡大していくか,その事を考えるきっかけに本特集がなれれば幸いである。
(宮﨑達郎)
主な執筆者:原田曜平,久我尚子,橋元良明,稲垣 聡,宮﨑達郎
目次
- 巻頭言
- 車額(麻生 幸)
- 特集:生協は若年層にとって「必要」な存在となれるか
- 若年層の価値観と消費(原田曜平)
- 若者の経済格差と家族形成格差(久我尚子)
- 若年層の情報行動(橋元良明)
- なぜクラフトビールは若い世代に好まれるのか?──ヤッホーブルーイングの戦略から解き明かすヒント──(稲垣 聡)
- 若年層調査報告──生協宅配の認知度と利用度──(宮﨑達郎)
- 研究と調査
- 東日本大震災被災地訪問報告(山崎由希子)
- 時々再録
- やめられない,とまらない──スマホの引力(白水忠隆)
- 本誌特集を読んで(2017・4)
- (及川昭夫・村 千鶴子)
- 私の愛蔵書
- 岸見一郎,古賀史健共著『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(井形貞祐)
- 新刊紹介
- 濱田武士著『魚と日本人 食と職の経済学』(鈴木 岳)
- 研究所日誌
- 生協総研賞
- 第15回(2017年度)生協総研賞「助成事業」の応募申請要領(抄)
- 公開研究会
- これからの家計簿──手書きの良さとアプリの良さ──
- 全国研究集会(9月30日開催予定)
- 地域における生協共済の役割とは何か(仮題)