刊行物情報

生活協同組合研究 2017年4月号 Vol.495

生活の中の法律 ─総合法律支援制度開始から10年─

 本号は「生活の中の法律―総合法律支援制度開始から10年―」と銘打ち,日常生活の中で重要な役割を果たしながら,意識されることの少ない「法」(特に私たちの日々の生活に直接関わるもの)について改めて見直す論稿を集めた。冒頭の佐藤論文は総合法律支援制度のありようと意義を検討しつつ,特集全体を概観する内容となっている。そして,この市民にとり最も身近な法的支援の制度を豊かなものにするために生協の果たしうる役割のあることが最後に指摘されている。

 続く太田論文と菅論文では高齢者など,認知機能が十分でない人の法的ニーズが顕在化され,サポートされる仕組みについて,日本と英国の事例を挙げて紹介されている。日本のケースからは,人々の法的ニーズが可視化されづらいという重要な指摘がなされている。また英国のケースからは就労や貧困の問題でしばしば言及される「社会的排除」や「包摂」といった概念は,法に関わる場面でも重要な考え方であることがわかる。そして,いずれの国においても近年,福祉分野と司法の専門家の連携が重要性を増していることが理解できる。

 磯辺論文では,消費者の権利の実現は行政施策推進や実体法の整備を通じて行われてきているが,そのプロセスには消費者団体が重要な役割を果たしていること,そして一層の消費者権利の実現には,それらの消費者団体の財政基盤の強化や団体間の連携が必要であることが指摘されている。

 池永稿では英国のコーペラティブ・グループ(CG)による法律サービス事業を検討し,現状ではサービスへのアクセスの公平性や平等性と収益性が実現できているかどうか,評価の割れていることが紹介されている。

 橋本稿は新しい学習指導要領がこれまでの知識暗記重視から「思考力,判断力,表現力」育成重視に方向性を変えてきた経緯と,消費者問題について「法的」に考え,判断や提言のできる市民を育てることを提唱している。

 山崎稿は生協が行う生活相談・貸付事業について,法制度の変化を含む歴史的な経緯と,生協がこれらの事業を行うことによる特長を整理した。購買生協が生活相談・貸付事業を行うことに対しては賛否両論あるが,組合員との地道な議論を通じて実現につなげたグリーンコープやみやぎ生協の事例は,市民による法の実践と言えるのではないか。

 「法」と聞くと敷居が高いと感じる読者の方もいるかもしれないが,地域福祉に関わる話も多いので,ぜひ読み進んで頂ければ幸いである。

(山崎 由希子)

主な執筆者:佐藤岩夫,太田晃弘,菅富美枝,磯辺浩一,山崎由希子,池永知樹,橋本康弘

目次

巻頭言
謙虚な経済学(生源寺眞一)
特集 生活の中の法律─総合法律支援制度開始から10年─
総合法律支援制度の意義と課題─地域と連携したネットワーク型支援と生協の可能性─(佐藤岩夫)
司法ソーシャルワークについて(太田晃弘)
判断能力の不十分な消費者の支援─イギリス法からの示唆─(菅富美枝)
消費者の権利実現における消費者団体の役割(磯辺浩一)
生協の生活相談・貸付事業について(山崎由希子)
コラム1 コーペラティブ・グループの法律サービス事業への参入と功罪(池永知樹)
コラム2 消費者教育と法教育をどう切り結ぶか─消費者市民社会形成の視点から─(橋本康弘)
時々再録
だし活の隠し味(白水忠隆)
本誌特集を読んで(2017・2)
(杉原里美・毎田伸一)
私の愛蔵書
佐藤さとる・作 村上勉・絵『だれも知らない小さな国』(三枝みさ子)
研究所日誌
新刊のご案内
生協総研レポートNo.84
公開研究会
生協論レビュー研究会報告(東京・中野5/15)
組合員参加と購買行動の相互関係を解明する(神戸5/30)
総目次(2016年4月号~2017年3月号)