生活協同組合研究 2017年3月号 Vol.494
“シングル化” する高齢社会とどう向き合うか
超高齢社会日本は,単身化・独居化が進行する社会でもある。本特集では高齢者の一人暮らしにスポットを当て,社会的対応を考えた。ただし,企画の趣旨は,高齢者シングル固有の困難さにフォーカスすることではない。むしろ,同居家族という“殻” から外れたこの層から照射することによって,いわば家族の自己犠牲的献身を必須のパーツとすることなく,弱者を包み込むことのできる社会の姿を描出することを企図した。
冒頭で,「単身急増社会」について早くから警鐘を鳴らしてこられた藤森克彦氏に,その現状・背景・影響を俯瞰したうえで,求められる対応を端的に提示いただいた。
筒井淳也氏は,シングル化を家族社会学の視点から紐解き,家族形成の支援ではなく家族負担の軽減こそがシングル化問題の処方箋になることを,精緻な論理立てで示された。
当研究所研究員の近本聡子は,家族をもつ組合員を基盤としてきた生協も単身化の影響を免れないことをデータで示しつつ,ワーカーズコープや地域生協の先進的取り組みを紹介した。
地域包括ケアシステムの中心に置かれている「住まい」の問題に関しては,生協との親和性も高いと思われる「地域善隣事業」に着目した。実践経験も踏まえ,白川泰之氏に教示いただいた。
特集の締めくくりには地域購買生協の事業ドメインである「食」を据え,石川みどり氏・武見ゆかり氏に寄稿をお願いした。高齢者シングルの食生活をめぐる問題について,調査の分析結果と生協への期待を述べていただいた。
コラム1では,コープこうべが未来づくりの核に据える「拠点づくり」を取材した。
コラム2では,2つの自治体について高齢者支援の施策と到達点をレポートし,鍵を握るのは市民の広範な参加であることを再確認した。
コラム3では,介護ロボットの開発・普及の戦略を,テクノエイド協会の五島清国氏に概括いただいた。高齢者の自立支援・介護者の負担軽減のために,近未来の社会では不可欠のツールとなるはずだ。
一人暮らしの高齢者が心安らかに過ごせる地域は,他の多くの構成員にとっても暮らしやすい地域であることが想像される。その具体像と実現に向けた道程,生協が果たせる役割の模索に,本特集が一条の光をもたらしうることを念じている。
(松田 千恵)
主な執筆者:藤森克彦,筒井淳也,近本聡子,白川泰之,石川みどり,武見ゆかり,松田千恵,松田千恵,五島清国
目次
- 巻頭言
- 超高齢社会とすすむ孤立化(中川浅行)
- 特集 “シングル化” する高齢社会とどう向き合うか
- 「単身急増社会」を考える(藤森克彦)
- シングル化の実態と問題の所在──家族形成は解決になるか?──(筒井淳也)
- 「おひとりさま」を友人や地縁で楽しく過ごせるか──脱・家族主義のなかで社会的な包摂を考える──(近本聡子)
- 「地域善隣事業」の実践から見えてきた新しい地域居住の形(白川泰之)
- ひとり暮らし高齢者の食生活の課題と解決にむけた取り組みとは?(石川みどり・武見ゆかり)
- コラム1 協同組合の精神を想起し,「拠点づくり」を進める──地域のなかで生まれ変わりを図るコープこうべ──(松田千恵)
- コラム2 地域の資源を生かし,重層的に高齢者を見守る(松田千恵)
- コラム3 高齢者社会における福祉用具・介護ロボットに係る施策の動向(五島清国)
- 時々再録
- 忘れない 風化させない 伝え続ける(白水忠隆)
- EV車を活用した一挙三得の再生可能エネルギー利用(白水忠隆)
- 本誌特集を読んで(2017・1)
- (渡辺精一・川口啓明)
- 私の愛蔵書
- ピーター・D・ピーダーセン 著『レジリエント・カンパニー』(妹尾成幸)
- 研究所日誌
- 公開研究会
- 英国の生協の過去,現在,そして教訓(福岡会場)
- アジア生協協力基金2017年度助成計画決定のお知らせ
- 「生協社会論」受講生募集
- 公開研究会(5/30 ←
3/10,神戸会場) - 組合員参加と購買行動の相互関係を解明する