生活協同組合研究 2017年1月号 Vol.492
特集:生協はAIにどう向き合うか
今月の特集は,昨今何かと話題になっているAI(人工知能, ArtificialIntelligence)をテーマとした。様々な分野で利用が始まり,いろいろな角度から議論がなされているが,この特集では,主に小売り流通の分野で,どう利用され,どんな可能性を秘めているか,また課題は何かに絞り,この分野での新しい動きについての報告をなるべく多く取り入れた。一読していただければ,日本の小売り流通分野におけるAIの今が概括できると思う。
基調報告と位置づけた能瀬論文は,AI開発の歴史,AIとビッグデータ,IoTとの関係,産業におけるAIの機能,用途の類型などが簡潔にまとまっており,以降の論文を理解するベースとなっている。この中で,AIビジネス時代には,業界を越えた「連携のエコシステム」を作り上げたところが優位になるとの指摘が印象に残った。生協の場合は,こういう異業種連携は可能なのだろうか,と気になった。
自動運転車の現状と課題を考察した福田論文は,単に運転手不足の解消の問題として捉えるだけでは不十分で,自動運転車の導入で従業員の働き方を変える必要があることを示唆している。小売り流通分野への導入例を報告した山下論文は,具体的な取り組み事例がいくつも示されて興味深いが,導入に前向きなローソンに対して,セブン・イレブンの関係者が商売の根幹に関わる発注を機械任せにできないと発言しているのがおもしろい。どちらが正しいというのではなく,自分たちの課題解決に何が必要か考えた結果の違いだと感じた。大切なのは,AIを導入してうまく行った成功事例を追いかけ,その真似事をすることではない。それでは,ただの「AIブーム」で終わってしまう可能性が高い。
その意味では,目指す目的は違うかもしれないが,石山論文の現場主義,現場でPDCAサイクルを回すということと通じるものがある。一ノ宮氏が紹介するABEJAの次世代型店舗解析ソリューションも,これまで取得できなかった実店舗の情報を人手をかけずに取得,分析できるシステムだが,これも現場の課題発見ツールでしかない。解析した結果を読み解き,どう工夫するのかを決めるのは現場の判断だ。
江間論文は冒頭で,「『人工知能が生活や仕事をどのように変えるのか』ではなく,『私たちが今後,どのように生活や仕事をしたいのか』を考えるきっかけとして人工知能を捉えたい。」と述べている。AIに限らず,新しい技術が登場してきた時,「AIに仕事を奪われる」などとただ不安になる前に,自分たちは何をしたいのか,という発想で物事をとらえることが重要ではないか。
なお,吉開論文で紹介された,気象協会の需要予測モデルに生協が協力することは考えられないだろうか? 能瀬論文が指摘している,異業種連携の可能性として検討してみる価値はあると思う。
(白水 忠隆)
主な執筆者:能瀬与志雄,福田佳之,吉開朋弘,山下福太郎,一ノ宮佑貴,石山 洸,江間有沙
目次
- 巻頭言
- 2050年に向かって(小方 泰)
- 特集 生協はAIにどう向き合うか
- AIは産業をどう変えるか(能瀬与志雄)
- 目前に迫ったクルマの自動運転─自動運転車の現状と課題─(福田佳之)
- 気象データとAIによる需給予測(吉開朋弘)
- 小売り・流通業界でのAIの取り組み(山下福太郎)
- 次世代型店舗分析ソリューションの提案(一ノ宮佑貴)
- 現場から考えるAI(石山 洸)
- 人工知能と向き合う方法論──介護ロボット,自動運転,接客サービスを事例に──(江間有沙)
- 時々再録
- 生活習慣病対策ゲームの正しい?活用法(白水忠隆)
- 海外情報
- モンレアル・第3回世界社会的経済フォーラム概要報告(鈴木 岳)
- 研究と調査
- 大学の学部教育・教養教育における保険教育の意義(千々松愛子)
- 本誌特集を読んで(2016・11)
- (山田香織・岩永尚之)
- 私の愛蔵書
- 佃 律志 著『上杉鷹山 リーダーの要諦』(川崎由美子)
- 研究所日誌
- 生協総研賞・第13回助成事業論文報告会
- 公開研究会
- 英国の生協の過去,現在,そして教訓(宮城2/15,福岡3/14)
- 公開研究会・今後の開催ご案内