生活協同組合研究 2016年12月号 Vol.491
特集:組合員参加と購買行動の相互関係を解明する
本号は2016年9月24日に実施した第26回全国研究集会「組合員参加と購買行動の相互関係を解明する」の報告を論考として納めたものである。この研究集会は,当研究所の「組合員の参加と購買行動研究会」* による研究の成果を公開して検討する場となった。
1.研究会の目的
「組合員の参加と購買行動研究会」は「日本の生活協同組合と他の小売業とを比較したとき,生協に優位性があるとするならそれは何か。それは組合員の参加ではないか」という仮説を検証することを目的として,2014年度末に設置された。この研究会の主な問題関心は以下の2つである。
1つめは,組合員の参加が本当に優位性となっているのかが,正確に評価されてこなかったためである。協同組合法にもあるように,組合員の参加は協同組合に特有の制度であり,協同組合の本質ともいえる。また,生協は店舗や宅配,共済,福祉などの事業に加え,幅広く組合員活動を行っている。多岐にわたる事業と活動に取り組んでいることは生協の強みである。もちろん各生協において個別に,組合員活動への参加の実態や購買事業の実態が把握されてはきた。しかしそこでは活動と事業が完全に別個のものとして捉えられていることも多く,両者の相互関係が問われてこなかった。さらには,生協間を横断するような知見も出されてこなかったといえる。
2つめは,購買事業の収益で生計をたてている役職員の増加にともない,組合員活動にかける費用と収益とのバランスを見直す必要が生じているからである。事業継続性の確保には,活動費を抑え,適正に運営を効率化する必要があると考えられる。
このような問題関心から研究を開始したが,その過程は試行錯誤の連続であった。研究会ではまず既存研究の検討を行ったが,マーケティング論と組織参加論という異なる学問領域の視点を統合することは難しかった。結果として,どのような研究が生協の今後に有益であるかを模索しながら進めることとなった。
2.実施した調査
このような経緯から,本研究会は組合員活動と購買行動の実態をとらえるためのアンケート調査と実利用を連結した調査を実施した。調査対象は3つの地域生協と日本生協連の調査モニターである。3つの地域生協については概要は以下の表1に示す。
表1 調査対象生協の概要(2015年会計年度)
総事業高 (単位:億円) |
組合員数 (単位:千人) |
出資金 (単位:億円) |
組合員1人当たり購買額 (単位:円/月) |
|
---|---|---|---|---|
コープみらい | 3,804 |
3,251 |
673 |
9,893 |
コープさっぽろ | 2,779 |
1,596 |
640 |
14,754 |
コープこうべ | 2,491 |
1,684 |
348 |
12,350 |
日本生協連 『2015年経営統計』 より抜粋
調査票には,個人属性(性別,年齢,学歴,年収,就労状況,組合加入年数など)を尋ねる設問のほか,組合員活動への参加状況,生協での購買状況を尋ねる設問を設けた。組合員活動については,高齢福祉活動,子育て活動,地域イベント,生産現場見学,食に関する活動,環境活動,社会問題学習会,生活学習会,趣味・サークル活動,班・グループ活動,生協運営参加の11種類の活動への参加経験があるかを尋ねた。さらに,参加した場合にはどのような感想をもったか,参加による人間関係の広がりを尋ねた。また生協での購買状況についてはPOSデータのほか,生協で食品を購入する割合,生協で商品を購入する理由を尋ねている。
これらの調査はすべてインターネットで実施し,日本生協連とコープさっぽろではモニターを,コープみらいではメールマガジン利用者を,コープこうべではインターネットでの購買利用者を対象とした。
本調査では購買行動を「利用」,生活課題に対する組合員活動と生協運営への参加を「参加」と捉えて連関をみることとした。
3.本誌の構成
冒頭で述べたとおり,本誌は研究集会の内容を所収したものである。以下,講演者と講演内容について簡単に紹介する。まず,上田氏には,「参加」は生協の優位性であったかもしれないが現在は営利企業も類似した活動を行っており,生協がいま一度,事業と活動の関係を見直す必要があるという提起をいただいた。次に,氏家氏には消費者の倫理的消費について解説を頂いた上で,生協の産直交流イベントが利用を促進している事例を紹介して頂いた。続いて中村氏は前述した4つの生協(連)のアンケート調査の結果をもとに,組合員の活動への参加が生協に対するロイヤルティの向上に寄与しているかを分析している。さらに宮𥔎氏は,組合員活動の種類に着目し,どの活動への参加が購買行動にプラスの影響を与えるかを分析している。最後に,パネルディスカッションでは,中村・宮𥔎2氏の報告を受けて,今後の組合員の活動の在り方を議論・提起する内容となっている。なお,本誌2016年9月号「組合員参加は生協の優位性をつくるのか」も,組合員参加の実態を明らかにし,今後の参加の在り方を考えることを目的としている。併せてご覧頂きたい。
本特集が,生協の事業と活動の関係を振り返り,より良い生協の未来を考えるきっかけになれば幸いである。
(近本 聡子)
* 研究会のメンバー構成は以下の通りである。上田隆穂(座長:学習院大学),氏家清和(筑波大学),藤田親継(コープみらい),西門正徳(コープこうべ),星野浩美(コープさっぽろ),茂木伸久(日本生協連)の各氏と,近本聡子,宮﨑達郎,中村由香(以上,生協総合研究所研究員)である。上記以外の生協の方々からも,多くの資料や知見をいただいた。記して感謝したい。また調査に回答いただいた組合員の皆様にも深く感謝申し上げる。
主な執筆者:生源寺眞一,中川雄一郎,上田隆穂,氏家清和,中村由香,宮﨑達郎,小方 泰
目次
- 巻頭言
- 家計簿記帳活動と生協(重川純子)
- 特集 組合員参加と購買行動の相互関係を解明する
- 開会の挨拶(生源寺眞一)
- 生協における「組合員参加」を考える(中川雄一郎)
- 生協のこれからと組合員の参加(上田隆穂)
- 組合員の購買行動と社会的価値(氏家清和)
- 組合員の参加は生協のロイヤルティ形成に寄与しているか(中村由香)
- 類型別に見た組合員参加の効果(宮﨑達郎)
- パネルディスカッション① 分析結果は何を意味するのか?
- パネルディスカッション② これからの組合員参加を考える
- 閉会の挨拶(小方 泰)
- 時々再録
- ペシャワールの会、中村哲氏講演「100の診療所より1本の用水路」(白水忠隆)
- 本誌特集を読んで(2016・10)
- (近藤丈二・伊野瀬十三)
- 私の愛蔵書
- 押尾直志 著『現代共済論』(藤本 昌)
- 研究所日誌
- 第11回生協総研賞「表彰事業」候補作品推薦のお願い