生活協同組合研究 2016年9月号 Vol.488
特集:組合員参加は生協の優位性をつくるのか
本号の特集は,日本の生活協同組合に優位性があるとするならそれは何か?という視点で「参加」に着目し,生協総合研究所の研究員を中心にこの課題を考えて提示している。企画を担当した近本の研究成果では,労働環境における優位性(他の組織形態に対する)は低い。これは協同組合研究(日本協同組合学会の研究誌)の通巻95号で論議している。賃金の低さ,非正規労働比率の高さ,女性職員比率の低さなどが非優位点である。
では,何に優位性があるのか。現場の人々に尋ねると,協同組合の原則にもあるようにステイクホルダーである組合員が,利用を含め何らかの形で協同組合という組織プロセスに参加していることが,他にはない優位性であるという答えが圧倒的に多い。また,事業をする上でもこれが強みであるという。近本は,これらは検証する必要があると考え,今年度は参加について考えることを提起した。巻頭論文として,中島氏のサードセクターにおける参加をどう整理するか,を提示いただいた。イギリスにおけるサードセクターの研究は歴史もあり,論点も多いが,現在の日本の複雑な協同組合での参加を整理するために大変有用な視点を提示くださったと考える。生協をゆるく非営利組織としてサードセクター概念に包摂するほうがよいと考えている研究者に近本も賛同している。メンバーの参加の状況や組織としての振る舞い方はここで描かれていることがらがほとんど日本の生協にあてはまると考える。
当研究所・専務理事の小方は,自らの経験から「参加が減少しているのではないか」という問題意識のもとで,新しい参加の形態を取材し,簡単な参加の歴史とともにこれからの活動のあり方を考察している。山崎は,フィールドとしている医療生協における組合員参加が地域リソースの醸成に貢献している状況をレポートしている。
また,白水の提示した事例は,組織の形態(つまり公的セクターも営利セクターも)を超えて進展するネットワーク社会の情報の流通の方向が,おそらく協同組合の優位性と目される消費者の参加を軽々と超えていくであろうことを示唆している興味深いものである。
松田の提示している「利用と一体になった参加」を構築するコープみやざきの事例は,中島氏の提起する垂直的参加に力を結集している組織の感があり,大変に興味深いものである。福祉事業や地域活動ではなく,購買そのものを活動としている様子が,今後の高齢社会,過疎化のなかで示せる一つの活動形態ではないか。共済における活動について,小塚が提示している相互の学習は協同組合の共済事業に特によく出ている優位性としての学習・教育機能である。
齊藤は共済事業における組合員の参加が強いと考えられている生活クラブ生協共済について取材して,組合員の参加状況が共済をより利用しやすいものにしている状況を紹介している。これらに加え,9月の購買と参加の連関を実証提示する研究集会,その成果について注目いただきたい。
(近本聡子)
主な執筆者:中島智人,小方 泰,山崎由希子,小塚和行,白水忠隆,松田千恵,齊藤真悟
目次
- 巻頭言
- 新しい技術と協同(福島裕記)
- 特集 組合員参加は生協の優位性をつくるのか
- サードセクター組織と参加(中島智人)
- これからの組合員活動を考える(小方 泰)
- 市民が作る地域福祉──盛岡医療生協湯沢地区のたまり場「みんなの家」──(山崎由希子)
- くらしに関する保障を学び合う──生協共済の中の組合員参加──(小塚和行)
- ソーシャルメディアが変える参加のあり方(白水忠隆)
- 「組合員を大切に」「組合員とともに」で「すごい生協」に──コープみやざきの経験が示唆するもの──(松田千恵)
- コラム 相互扶助精神をはぐくむ共済と組合員参加活動──生活クラブ共済連インタビューより──(齊藤真悟)
- 研究と調査
- 森林・林業施策の変遷と森林組合制度(早瀬悟史)
- 時々再録
- 首都直下地震 備えの現場を歩く(白水忠隆)
- 本誌特集を読んで(2016・7)
- (合瀬宏毅・有田芳子)
- 書籍紹介
- TPP協定と農業,共済への影響を学ぶ4冊(小塚和行)
- 研究所日誌
- 第26回全国研究集会のご案内
- 『生活協同組合研究』目次概要