生活協同組合研究 2016年8月号 Vol.487
特集:海外の生協2016 ─世界的な環境変化のなかでの歩み─
本号は欧州とアジアの生協(協同組合)を取り上げた。それぞれの生協は世界全体の環境変化と,各国が直面する課題の影響を受けつつ,消費者の暮らしを支える事業を行っている。そして,生き残りのために試行錯誤している。世界のトップクラスの巨大流通企業との厳しい競争のなかでの各国の生協の取り組みは,日本の生協にとっても参考になる。
まず拙稿で,欧州6ヵ国の生協,イギリス,北欧(フィンランド,スウェーデン,デンマーク),スイス,スペインの2015年度の経営状況を紹介する。今回取り上げた生協は「経営危機・不振から脱却しつつある生協」と「安定した経営を続け,未来に向けて投資している生協」の大きく二つに分けられる。残念ながら前者が多いが,イギリスのコーペラティブ・グループでは経営危機の克服の過程で,今後に期待できる事業への絞り込みや組合員とコミュニティの重視などの取り組みが生まれている。スイスのミグロの豊富な資金力を背景にしたオムニチャンネルや医療への事業拡大も興味深い。
世界諸国の生協の事情に詳しい天野晴元氏(日本生協連)の論考は,イギリスの小売労働者協同組合についてである。組合員の経営参加や組合員の労働観を就労形態に反映させたユニークな経営で成功を収めた2つの生協の訪問報告である。
イタリアの社会的協同組合は,イタリア各地を足繁く調査されている宮沢佳奈子氏(日本生協連)に執筆いただいた。こちらは欧州で増えているコミュニティコープの訪問報告である。コミュニティコープは地域社会と密着した活動を行っている。
李香淑氏(iCOOP 協同組合研究所)には韓国生協についてご執筆いただいている。代表的な地域生協の事業連合を4つ取り上げ,現状と課題を分析している。
西本有希氏(日本生協連)は,氏の駐在中であるシンガポールのNTUCフェアプライス生協を紹介している。同国の小売状況におけるフェアプライスの強みについて分析している。
コラムとしては,台湾から留学中の大学院生・林暐樺氏に,台湾の生協である「台灣主婦聯盟生活消費合作社」の設立に関する歴史的経緯を調べていただいた。ドバイの生協の小紹介も掲載した。
(佐藤 孝一)
主な執筆者:佐藤孝一,天野晴元,宮沢佳奈子,李 香淑,西本有希,林 暐樺(翻訳:齊藤真悟),鈴木 岳
目次
- 巻頭言
- ブループリントは何のために提案されたのか(中川雄一郎)
- 特集 海外の生協2016──世界的な環境変化のなかでの歩み──
- 欧州6ヵ国生協の経営概況──イギリス,フィンランド,スウェーデン,デンマーク,スイス,スペインの生協の2015年度決算状況から──(佐藤孝一)
- ユニークな経営で成功を収めるイギリスの労働者協同組合(天野晴元)
- イタリアで設立が進むコミュニティコープ訪問報告(宮沢佳奈子)
- 韓国生協の現状と課題(李 香淑)
- シンガポールとともに歩むNTUCフェアプライス生協(西本有希)
- コラム1 台湾の生協──台灣主婦聯盟生活消費合作社──(林 暐樺 翻訳:齊藤真悟)
- コラム2 ドバイ・エミレーツ生協の一齣(鈴木 岳)
- 研究と調査
- 保険・共済の歴史展開と共済制度の今日的意義(今尾和實)
- 時々再録
- 日本記者クラブ森重昭会見「原爆で犠牲となった米兵捕虜」(白水忠隆)
- 本誌特集を読んで(2016・6)
- (菅野幹雄)
- 新刊紹介
- 広岡裕児著『EU騒乱 テロと右傾化の次に来るもの』(松田千恵)
- 研究所日誌
- 第26回全国研究集会のご案内