刊行物情報

生活協同組合研究 2016年6月号 Vol.485

特集 : 現代日本の税制度と税の持つ意味を考える

 本号は特集として現在の日本の税制度を取り上げた。折しも本号の編集中にパナマ文書のニュースが入り,税について見聞きする機会が増えたが,「日本の税制度」についての理解は深まったのだろうか。税制は非常に複雑であり,ふつうに生活している人にとり身近な税と言えば,せいぜい消費税,所得税,住民税(あるいはふるさと納税),固定資産税,自動車税あたりに限られるのではないだろうか。また,雇用されて働く人で自分が毎月いくら税金(と社会保険料)を納めているのか,こまめに確認している人はどれくらいいるだろうか。もっとも,自分が納めている税金の額を把握したところで納める金額に変わりはないので関心すら持てない,という人もいるかもしれない。

 このような状況を反映してか,税制改正は毎年行われているにも関わらず(さらに国と地方自治体の双方で財政赤字がこれだけ巨額に達しているにも関わらず),税制に関する世論がもっとも盛り上がるのは,消費税に変更がなされる時である。(今のところ)2017年4月に予定されている消費税10%への再増税をめぐり,昨年秋から冬にかけて報じられた軽減税率をめぐる攻防は記憶に新しい。そこでは,今夏の参議院議員選挙への影響を懸念する政権与党がそれぞれの支持基盤からの要請に応じるため,軽減税率適用の線引きをめぐってぎりぎりまで交渉が行われた。最終的に軽減税率の適用対象は「酒類と外食を除く食品全般」と「(各戸に配達される)新聞」で政権与党内の合意にこぎつけたものの,約1兆円と見込まれる軽減税率を支えるための財源をどのように確保するのかは明確にされていない。

 ここで考えたいのは,税制をめぐる議論を消費税の適用対象や税率の上げ幅に矮小化して良いのか,ということだ。日本の税制は消費税だけで成り立っている訳では決してない。そもそも税制が社会に対して果たす役割・機能とは一体何か。なぜ,私たちは税を納めなければならないのだろうか。現在の日本の税制度は社会に対して適切な機能を果たせるようになっているのか。なっていないのであれば,日本の税制は一体どのようにあるべきなのか。そして私たちが納める税金は,少なければ少ないほど良いのだろうか。私たちはなぜ,これほどまでに税を忌避するようになったのか。このような状況を克服し,税制をより良いものにするために,私たちは何をすべきなのか。

 このような問いには数学の公式から導き出されるような明快な答はない。世界中でそれぞれの国の実情に応じた特徴を持つ税制が存在し,それも時代に応じて変化する。税制は(民主主義の国であるならば)人々が自ら選び,作るものだ。日本の税制が本来果たすべき機能を果たしていないとすれば,私たちはそれを正すための方法を検討し,より良い選択肢を選びとり,実現させていかなければならない。そのためにはまず,税制について知ることがもっとも重要である。本号は上で挙げたような問いを考えるヒントとなる論稿を,専門家の各氏にできるだけ分かりやすく執筆頂いた。これらの論稿から,税制についての理解を深め,望ましい将来への選択肢を見つけて頂ければ幸いである。

(山崎 由希子)

主な執筆者:池上岳彦,野村容康,林 宏昭,青木 丈,古市将人,山根香織,山崎由希子

目次

巻頭言
コーポレート・ガバナンス管見(山部俊文)
特集 現代日本の税制度と税の持つ意味を考える
租税の役割と原則(池上岳彦)
歴史的に見た日本の税収構造──なぜ不公平な税体系になってしまったのか──(野村容康)
地方税・財政の課題(林 宏昭)
民間税制調査会による税制改革提言のポイント(青木 丈)
租税への合意と財政に対する信頼──日本における租税への忌避感の背景について──(古市将人)
コラム1 「社会連帯」の基礎となる税制を市民の力で(山根香織)
コラム2 税を通じた社会統合の戦略──カナダを事例として──(山崎由希子)
時々再録
どうみるマイナス金利──経済史・金融史からみたQQE(量的・質的金融緩和)──(白水忠隆)
本誌特集を読んで(2016・4)
(佐々木達也・藤井克裕)
新刊紹介
女性と子どもの貧困問題に関する4冊(近本聡子・松田千恵)
研究所日誌
公開研究会(6/30,7/12)のご案内
第14回生協総研賞 「助成事業」の実施要領(抄)
2016年度全国研究集会のご案内