生活協同組合研究 2015年7月号 Vol.474
特集 : 水産物の消費をめぐる動き
水産物の消費について考えるとき,まっさきに出てくるのが「魚離れ」という言葉だ。水産物の消費が社会的に減少していくなかで,「生協はどのように水産物を販売していくか」,このヒントを模索するために本特集を企画した。まずは売れなくては水産物を店舗や宅配で扱っていくことはできない。そのため,今回は川上の生産や資源管理ではなく川下である消費についての論稿を集めることとした。
特集の始まりに,馬場氏(東京海洋大学)に水産物の消費について全体的な整理をお願いした。まず,「魚離れ」という現状について正しい理解をするためだ。水産物の消費が減少している原因として,調理に手間がかかることが指摘されており,それに対応する形で水産庁がファストフィッシュ1)を推しているが,これに関しての論稿を佐野氏(鹿児島大学)にお願いした。読者自身もファストフィッシュをどう評価するか,考える機会にしてほしい。実際の小売の現場でできることはないのだろうか。堀内氏(エバーフレッシュ研究所)には小売の現場でできる食育の取り組みのご紹介をお願いした。生協の店舗で活かせる知見も多くあるはずだ。日本では水産物の消費が減少しているが,海外ではそれが増加している傾向がある。その違いは何なのだろうか。海外と日本での水産物の消費や流通について,小松氏(アジア成長研究所)に紹介をお願いした。そして,特集の終わりは,上妻氏(経済ジャーナリスト)による漁業専門チェーン角上魚類の紹介だ。「魚離れ」などなんのその,業績を伸ばし続ける専門チェーンの経営には学ぶべき点も多いだろう。
水産物に限らないが,食べ物は食べなければならない,と押し付けられるものではない。食べたい,と思われることが重要なのだ。生協の水産物を食べたいと思われるようにするにはどうすればよいか,明確なビジョンを持つことが求められている。
【注】
1)手軽・気軽においしく,水産物を食べること及びそれを可能にする商品や食べ方
(宮﨑達郎)
主な執筆者:馬場 治,佐野雅昭,堀内幹夫,小松正之,上妻英夫,小林信之,鈴木 岳
目次
- 巻頭言
- 資源保護における組織と個人(麻生 幸)
- 特集 水産物の消費をめぐる動き
- 魚離れの実相(馬場 治)
- ファストフィッシュをどうとらえるか(佐野雅昭)
- 食品スーパーだから出来る『魚で食育』(堀内幹夫)
- 海外と日本の水産物の消費と将来──水産物の消費と供給―消費者の役割──(小松正之)
- 日本一の魚屋を目指す鮮魚専門チェーンストア──売り方次第で魚は売れる業績を伸ばし続ける角上魚類──(上妻英夫)
- コラム1 京都生協の「かもめボックス」の変遷と魚食の近況についてのインタビュー(小林信之 (聞き手:鈴木 岳))
- コラム2 魚介料理と日本酒およびブドウ酒との相性を一考する(鈴木 岳)
- 研究と調査
- 生協組合員の参加と消費行動2014調査から──組合員の生協観の一端をみる──(近本聡子・宮﨑達郎)
- 海外情報
- 欧州5生協の2014年度決算書(財務諸表)を読んで(藤井晴夫)
- 時々再録
- Think Globally Act Locally 2つの宇和島物語(白水忠隆)
- 本誌特集を読んで(2015・5)
- (小林由比・中田輝樹)
- 新刊紹介
- 菊澤研宗 著『ビジネススクールでは教えてくれないドラッカー』(寺尾善喜)
- 研究所日誌
- 公益財団法人生協総合研究所・第25回全国研究集会のご案内