刊行物情報

生活協同組合研究 2015年6月号 Vol.473

特集 : 長寿時代のシニア層のくらし

 今回の特集では,昨年の「2050研究会」中間報告──超少子高齢・人口減少社会の到来(本誌2014年7月号)に続き,高齢層・現代のシニア層のくらしをみるいくつかの視角を提示したい。日本をはじめ,医療や製薬の研究・技術は世界でも日々更新される先端分野があるので,「寿命の限界説」つまり,もう寿命は延びないだろうという人口学や一般人の平均寿命予測を,実態は毎年クリアしてきた。近年は健康寿命という言葉が定着し,高齢期になっても,健康でできるだけ自立した生活をするという啓発や予防介護も進み,さらに自覚的に寿命を延ばす効果をもたらすと予測される。

 団塊世代が後期高齢期になる2025年を超高齢社会開始年として問題視する論調が多いが,国の財源の問題という危機にとどまらず,寿命はもう伸びないであろうという寿命の限界説は覆され,高齢層の格差(経済,健康)が拡大するのではないかと考えている。つまり健康を維持できる資源を得られる人,得られない人の差が広がることも,地域社会の協同性を危うくする点として重要だと考える。単に所得(ストックを含む)だけではなく,地域資源のアクセス,自己の遺伝子の質などマクロからミクロまで,格差次元があるという意味である。

 本号では,まず,土堤内氏に高齢期の自分の生活をマネジメントするために注意するべきリスクとして主要なものを解説いただく。第2に,岡﨑氏に近年増加し,家のなかから地域へ顕在化してきた「アルコール中毒」高齢者の心のメカニズムと健康復帰へのプロセスを解説いただく。第3に,消費者としての高齢層がコンビニなどを利用し,中食利用をさらに進め豊かな食生活になると予測する北濱氏の論考。生協の事業にとっても大変革期となりそうだ。第4に,神奈川ゆめコープ理事から地域職に発展して活躍する安井氏より,職場から地域に戻ってきた男性たちが地域活動にインクルードされる仕掛けをどう作るかという視点で紹介いただく。第5に,日本の高齢者は生活の質が高いが格差も大きいという国際比較調査を近本が紹介する。また,関連コラムとして,シニア層に移行しつつ元気に地域で活躍しているワーカーズ・コレクティブの女性たちのライフヒストリーを中村久子氏に紹介いただいた。

 できるだけおカネで片を付けようと考えている層が多い一方で,地域での人との交流や助け合いをして老いていきたいと考える層もおり,多様な価値がせめぎあう状況である。地域で働く側は,地域ごとの特性を把握して変革いただければと考える。

(近本聡子)

主な執筆者:土堤内昭雄,岡﨑直人,北濱利弘,安井裕子,近本聡子,中村久子

目次

巻頭言
生協について学ぶ機会(重川純子)
特集 長寿時代のシニア層のくらし
定年退職後のライフマネジメント──長寿時代の「幸せレシピ」──(土堤内昭雄)
定年後のアルコール依存症の増加と地域サポート(岡﨑直人)
高齢化と共に押し寄せ,流通を変える「中食化」の大波──三菱食品中食調査から──(北濱利弘)
中高年期男性の地域活動と支援──横浜市鶴見区の事例──(安井裕子)
シニア層の生活格差の諸相──日本のシニア層は平均では豊かだが格差が大きい──(近本聡子)
コラム ワーカーズ・コレクティブで自分らしく働く(中村久子)
研究と調査
「生活協同組合」の呼称の“最初” をめぐって(斎藤嘉璋)
時々再録
番外編「スタンプラリーの研究」(白水忠隆)
本誌特集を読んで(2015・4)
(濱田康行・田渕英治)
新刊紹介
小田切徳美 著『農山村は消滅しない』(大本隆史)
読売新聞生活部/編『読売新聞家庭面の100年レシピ』(人見昭生)
研究所日誌
第13回(2015年度)生協総研賞「助成事業」の実施要領(抄)
公益財団法人生協総合研究所2015年度第3回公開研究会
追悼 天野正子氏