生活協同組合研究 2015年3月号 Vol.470
特集:大震災から4年──福島を考える
今年は阪神淡路大震災から20年の節目の年だった。震災発生の1月17日の前には震災関連の多くの報道がなされた。日々,様々な事件事故が起こり,人々の興味関心が移ろいやすい今の時代にあっては,節目節目に,問題を整理しておくことも意味がある。
東日本大震災から4年を迎えるに当たって,今月号は福島県の現状と課題を特集のテーマとした。福島原発事故の深刻な影響を抱えた福島は,他の被災地とはまた違う困難を抱えている。ただ,震災から時間がたつにつれ,報道の量が少なくなると同時に,情報も細切れになっていき,被災地以外では福島の現状がつかみづらくなっている。改めて,福島の状況をきちんと把握しておきたいというのが,今特集の狙いである。
福島県知事,内堀氏には,限られた紙数の中で,福島の現状をまとめていただいた。福島が抱えている問題,再生に向けた動きを県の事業を通して知ることができる。西山氏には企業の復興の現状と課題を,小山氏には一次産業の課題を考察していただいた。西山氏と大澤氏は,企業の復興過程を中長期にわたり,定量的に把握していく中で,多額の復興予算を短期的に執行しようとする問題点を指摘している。小山氏は原発事故の風評被害について,「大丈夫」「福島応援」だけでは限界があることを指摘,国が科学的なデータを広範に網羅的に集約する必要性を強調している。ともに傾聴に値する。
菅野氏には,福島復興のカギとなる福島原発事故に焦点を当てた報告をお願いした。世論調査で6割以上の県民が復興は進んでいないと感じている大きな理由の一つが原発であり,その問題解決が容易ではないことを再認識させられる。今野氏は,個々の住民レベルに視点を据え,「人間らしい生活の回復」がいかに厳しいかを述べている。そして,そうした生活の回復のために,被災地の生協が様々な試みをやってきたこと,また協同組合だからこそできることがよく理解できた。
内堀氏は,福島の現状を「光と影が交錯した状態」とし,いかに影の部分を少なくしていくための取り組みを進めていくかと述べている。阪神淡路大震災の影響は20年たった今も完全に解決したわけではない。福島の復興にはさらに長い長い時間が必要になる。その「光と影」を節目ごとにきちんと伝えていく必要があると感じている。
(白水 忠隆)
主な執筆者:内堀雅雄,西山慎一,大澤理沙,小山良太,菅野 篤,今野順夫,小野雄三,渡邊 純,高木竜輔
目次
- 巻頭言
- 介護報酬改定に想う(兵藤 釗)
- 特集 大震災から4年──福島を考える
- 福島復興の光と影(内堀雅雄)
- 福島県における企業復興の現状と課題(西山慎一・大澤理沙)
- 原子力災害からの福島県農業・農村の復興プロセス(小山良太)
- 福島原発事故の現状と課題(菅野 篤)
- 生活協同組合から見た震災復興の現状と課題(今野順夫)
- コラム1 被災地・被災者の“ありがとう”と“忘れないで”の声に寄りそいながら(小野雄三)
- コラム2 法律相談に見る原発事故被災地復興の課題(渡邊 純)
- コラム3 避難生活の長期化とコミュニティ形成(高木竜輔)
- 海外情報
- 韓国協同組合のひとつの起源を訪ねて──金榮注(キム・ヨンジュ)氏の談話から──(近本聡子)
- フィンランドの高齢者福祉の近況とその前提④──高齢者福祉とその周辺について・視察をもとに──(鈴木 岳)
- 時々再録
- 阪神淡路大震災から20年(白水忠隆)
- 本誌特集を読んで(2015・1)
- (中井正裕・戸井田直人・半澤彰浩)
- 新刊紹介
- 松井久子編『何を恐れる フェミニズムを生きた女たち』(藤井晴夫)
- 中野円佳 著『「育休世代」のジレンマ 女性活用はなぜ失敗するのか?』(髙井麻妃)
- 三山喬 著『さまよえる町~フクシマ曝心地の「心の声」を追って』(山崎由希子)
- 平井有太 著『福島 未来を切り拓く』(林 薫平)
- 研究所日誌
- アジア生協協力基金・2015年度の助成事業活動計画決定のお知らせ