生活協同組合研究 2015年2月号 Vol.469
特集:欧州の社会変動──直面する課題とその背景
生協総研は,かねてから世界の生協動向を折に触れて紹介してきた。近年でも,本誌では「MIGROSとCOOPスイスの2013年決算の概要」・「スペイン第2の生協CONSUMを視察して」(2014年6月号),「イギリス・コーペラティブ・グループの経営危機とそれを招いたもの」(2014年8・9月号)などを扱った。さらに,『生協総研レポート』でも「欧州生協の動向2011」(69号),「イタリアの生協の現状について」(76号)を刊行している。しかし,こうした生協の変遷を描ききるためには,背景にある政治や経済,社会動向の変化,そして流通業・競合の変遷と生協のポジションの研究も不可欠となる。生協総研でも研究報告として2011年7月に第3回公開研究会「イギリス・イタリアにおける社会的経済の動向と日本への示唆」を開催したが,まだまだ不十分である。一方,欧州では,リーマンショック以後,国家の債務危機,失業の長期化と青年の就業難,押し寄せる移民と社会的排除など経済と社会における緊張が高まってきており,抜本的な解決策は未だ見えてはいない。しかも2014年5月の欧州議会選挙では,イギリス,フランス,デンマーク,ギリシャにおいてEUの存在そのものに疑問を有する勢力が躍進する事態とさえなっている。
上記の問題意識から,本特集では生協が社会的・経済的役割を大きく発揮している国々,スウェーデン,イタリア,イギリス,スペインの政治的・経済的現状について,気鋭の専門家からご寄稿いただいた。佐藤吉宗氏からは「スウェーデンにおける近年の経済成長の特徴と政治の変化」,そして流通業や再分配政策について,伊藤武氏からは「イタリアの協同組合運動,その歴史的背景及び政治との関係」を19世紀から現代まで説き起こしていただいた。近藤康史氏からは「キャメロン政権下のイギリス福祉国家」をめぐる最新の動向について,中島晶子氏からは「転換期のスペイン」における国家や市民の課題とその対応についての論考をいただいた。いずれの論考においても,4カ国の生協のよ依って立つ基盤を解明しており,どのような文脈で生協がそれぞれの事業政策や社会政策をすいこう遂行してきたかをうかが窺える内容である。
これらの論考が,生協総研が報告してきた各国生協の現状報告への理解を一層,深めることとなることを期待し,また,こうした情報が日本社会における生協の今後の新たな挑戦への示唆となれば望外の喜びである。なお,生協総研では,ご寄稿いただいた研究者から直接に報告を受ける「公開研究会」の開催を検討しており,近々,ホームページ等で開催概要をご案内する意向である。こちらへの参加もお願いしたい。
(大津荘一)
主な執筆者:大津荘一,佐藤吉宗,伊藤 武,近藤康史,中島晶子
目次
- 巻頭言
- Après nous le déluge?──談合のない社会──(山部俊文)
- 特集 欧州の社会変動──直面する課題とその背景
- この特集の企画にあたって(大津荘一)
- スウェーデンにおける近年の経済成長の特徴と政治の変化(佐藤吉宗)
- イタリアの協同組合運動,その歴史的背景及び政治との関係(伊藤 武)
- キャメロン政権下のイギリス福祉国家──緊縮財政と「大きな社会」──(近藤康史)
- 転換期のスペイン──経済危機と合意の終焉──(中島晶子)
- 海外情報
- 韓国国際社会的経済フォーラム・iCOOPツアー参加レポート(山崎由希子)
- ソウル2014GSEFと4生協店舗の訪問より(鈴木 岳)
- 第11回ICA-AP地域総会およびILO・UNICEF視察に参加して(宮﨑達郎)
- 時々再録
- 秋田県藤里町の引きこもり対策事業報告(白水忠隆)
- 本誌特集を読んで(2014・12)
- (友野賀世)
- 新刊紹介
- 池本美香 編著『親が参画する保育をつくる 』(汐見和恵)
- 髙橋威知郎 著『14のフレームワークで考えるデータ分析の教科書』(並木静香)
- 研究所日誌
- 生協総研賞・第11回助成事業論文報告会
- 第10回生協総研賞「表彰事業」候補作品推薦のお願い
- 2015年全国生協組合員意識調査「並行調査」募集のご案内