刊行物情報

生活協同組合研究 2015年1月号 Vol.468

特集:エネルギー転換について地域で市民にできること

 生協総合研究所は日本生協連と共同で10か月にわたり開催した「生協の電力事業研究会」の報告書を2013年4月に刊行して以来,本誌においてエネルギーに関する特集を数回組み(「生協の電力事業研究会を終えて」[2013年4月],「くらしとエネルギー ガスの巻」[同年10月],「電力自由化と再生可能エネルギー」[2014年4月]),日常生活に欠くことのできないエネルギーについて理解を深める学習を進めてきた。これらの特集に通底する問題意識は,2011年3月に起きた東日本大震災に起因する原子力発電所事故を契機に,それまで見過ごされがちであったエネルギー利用のあり方や電気の作られ方を見直し,いかにして持続可能かつクリーンなエネルギーへ転換するかというものであったと思う。

 このような問題意識を背景に,本号では2016年に予定されている電力小売り全面自由化を前に,「地域で」「市民が」エネルギー転換について何ができるかを考える特集を組んだ。古沢論稿では,世界的に見ても量的豊かさの追求は限界に直面しており,持続可能な社会を築くためには(地域資源を活用した)再生可能エネルギー(以下再エネ)の促進が不可避であること,その実現のためにはより幅広い市民の意識変化と取り組みが重要であることを指摘している。このことを経営者の立場から実践している事例が鈴木氏の論稿で提示されており,地域における再エネ促進がビジネスとつながることが示されている。池本論稿においては2012年9月に「地域自然エネルギー基本条例」を制定した湖南市が行っている,市民組織,企業などと連携した自然エネルギーを活かした地域社会の持続的な発展を目指した取り組みについて報告されている。そして寺下論稿においては再エネの固定価格買取制度(FIT)を活用し,生協がそれ自体として特定規模電気事業者(PPS)として事業を行うことの意義や実際行う事業の内容について解説されている。続く手塚論稿では鳥取における市民共同発電所の設立経緯とその売電収入が地域で循環する仕組みについて説明,発電所の設立過程では学習会やトーク・イベントといった双方向の情報共有の場がプロジェクトの基礎となったことが述べられている。同様に小山田論稿においては小田原市で市民の取り組みとして小水力発電が適切であった背景の説明と,他の地域で市民が小水力発電を行うための実用的なアドバイスが述べられている。二村論稿は現在,再エネをめぐる大きな争点となっている接続回答保留問題や賦課金をめぐる議論の内容を整理,再エネ促進を考える際の論点を提示している。最後に三浦論稿であるが,日本各地において地域の人々が設立したエネルギー協同組合の歴史的事例を紹介し,現代においてもそのような取り組みが不可能ではないことを示している。

 以上の論考を通じて,エネルギー転換とは天から降ってくるものではなく地域で地道に進めていけるものであること,地域に適した再エネ促進のプロジェクトを設計することで利益が地域に循環する仕組みを形成できること,そしてそのような活動を支える制度の重要性が明らかになったと思う。

(山崎 由希子)

主な執筆者:古沢広祐,鈴木悌介,池本未和,寺下晃司,手塚智子,小山田大和,二村睦子,三浦一浩

目次

巻頭言
この国の民主主義について考える──第47回衆議院議員選挙の直前に──(芳賀唯史)
特集 エネルギー転換について地域で市民にできること
胎動するエネルギー市民革命──地域で市民がエネルギー転換に取り組む意義──(古沢広祐)
エネルギーから経済を考える(鈴木悌介)
自治体による再生可能エネルギー利用促進の取り組みについて(池本未和)
生活協同組合によるPPSの設立の意義・PPS登録までの経緯について(寺下晃司)
非営利組織による地域での自然エネルギー促進活動(手塚智子)
小田原におけるマイクロ市民水力発電は地域に何をもたらしたか?(小山田大和)
再生可能エネルギーをめぐる情勢と課題(二村睦子)
日本における協同組合とエネルギーの歴史(三浦一浩)
時々再録
日本記者クラブ「IEA世界エネルギー展望2014」(白水忠隆)
本誌特集を読んで(2014・11)
(吉田忠則・田代洋一・夏目有人)
海外情報
2014年国際協同組合サミットに参加して(栗本 昭)
フィンランドの高齢者福祉の近況とその前提③(鈴木 岳)
新刊紹介
消費者庁編『平成26年版 消費者白書』(磯辺浩一)
片桐新自著『不透明社会の中の若者たち』(藤村正之)
研究所日誌
生協総研賞・第11回助成事業論文報告会
第10回生協総研賞「表彰事業」候補作品推薦のお願い
2015年全国生協組合員意識調査「並行調査」募集のご案内