生活協同組合研究 2014年12月号 Vol.467
特集:社会保障制度の課題と生協の新たな可能性 ~くらしやすい地域づくりを目指して~
本特集は2014年秋の当研究所主催,全国研究集会の記録をメインに構成している。「社会保障制度の課題と生協の新たな可能性~くらしやすい地域づくりを目指して~」をテーマとして明治大学において開催された。当日ご参加いただいた皆様には感謝を申し上げる。議論の内容も大変有意義であったので,今後の社会保障制度を注視するための具体的な視点を得たのではないかと思われる。終了後のアンケートでも様々な視点からの評価や不足する視点についてのご指摘をいただいた。また,本特集により,参加されなかった読者の方々も臨場感をもって当日の様子や論点が見えるのではないかと期待したい。
今回の研究集会の前半では,2015年に大きく変わる制度について,理論的枠組みと,行政や非営利組織の役割を論じていただいた。税と社会保障が連動した構造をもち,今後の日本社会の方向をさだめ,沈没しないよう支えるためのひとつの羅針盤となるだろう。特にこの社会保障制度に初めて組み込まれた「子ども・子育て新制度」は,学ばないとなかなか分からない領域である。
次いで,現在,地域(広域市町村)の中間総合相談システムとして県民のタウンミーティングから生まれた千葉県中核地域生活支援センターについて,制度作りから始めて地域での具体的活動として行政が実施に至った好事例として紹介をいただいた。地域における制度刷新をしている事例として,購買事業から踏み出し,子ども・子育て事業に発展させつつあるコープみらい,地域の様々な福祉ニーズを満たすために多機能な拠点を作っている生活クラブ風の村,病院内だけではなく地域で医療と介護を有機的に連携させて,高齢層のくらしを医療介護で支えている姫路医療生協のお話をうかがった。
子ども・子育て新制度に関する問い合わせが秋以降増加しているが,あわてて数か月で対応できるものではない。これまでどのように地域視点をもった活動・事業があったのか,若年層ニーズを把握しているのか,またこれからどのような地域になったらいいかというビジョンをもっているのか。こういったトータルな地域把握(しかも地域は多様)が未熟だと感じられる生協が少なくない。それぞれの地域にはどういう人が住み,どんなくらしをしたいのか,地域福祉サービスの「複合化」と「社会化」が重要と考えている。くらしの改善,あなたが困ったときに支える地域とは,を考える一助になる特集であると確信している。
(近本聡子)
主な執筆者:生源寺眞一,中川雄一郎,駒村康平,前田正子,渋沢 茂,杉岡眞由美,島田朋子,渡辺 寧,芳賀唯史
目次
- 巻頭言
- 超少子高齢・人口減少社会と生協の可能性(金子隆之)
- 特集 社会保障制度の課題と生協の新たな可能性 ~くらしやすい地域づくりを目指して~
- 開会挨拶(生源寺眞一)
- 協同組合は社会政策にどう向き合うのか(中川雄一郎)
- 日本の社会保障制度と2014年年金財政検証(駒村康平)
- 行政と非営利組織による地域サポートの現状と課題(前田正子)
- 中核地域生活支援センターはどのように作られたか(渋沢 茂)
- 行政,医師会等,他団体との連携を大切に誰もが安心して暮らし続けられるまちづくりをめざす(杉岡眞由美)
- 生活クラブいなげビレッジ虹と風の取り組み(島田朋子)
- コープみらい「子育て」の取り組み(渡辺 寧)
- パネルディスカッション
- 閉会挨拶(芳賀唯史)
- 時々再録
- 日本記者クラブ「貿易に関する国際世論調査」(白水忠隆)
- 本誌特集を読んで(2014・10)
- (高橋健次郎・星野浩美)
- 新刊紹介
- 駒村康平 著『日本の年金』(齊藤真悟)
- 前田正子 著『みんなでつくる子ども・子育て支援新制度』(近本聡子)
- 生源寺眞一 著『農業と人間』(林 薫平)
- 中川雄一郎/ JC総研(編)『協同組合は「未来の創造者」になれるか』(石澤香哉子)
- 研究所日誌
- 第10回生協総研賞「表彰事業」候補作品推薦のお願い