刊行物情報

生活協同組合研究 2014年11月号 Vol.466

特集:日本農業の変わり目と問われる適応能力

 食料安全保障,担い手,農業経営の安定化,耕作放棄地,農業そして食料に関する話題は枚挙に暇がない。社会的にも非常に関心が高い話題であり,本特集を企画する責任を感じている。

 本特集のタイトルとして「変わり目」という言葉を用いたのは,環太平洋連携協定(TPP),そして農協改革という,日本農業の歴史においても非常に大きな事案が進展しつつあるためである。前者は日本農業としての視点を持った場合の強烈な外圧であり,後者は今までの日本農業の土台にあった組織を変容させる可能性のあるものだ。この2つの影響はあまりに大きく,日本農業は変わらざるを得ない。その影響は,農業生産者のみならず,消費者,企業,地域,社会全体に波及するだろう。

 そして,「適応」という言葉が本特集のもう1つのキーワードだ。環太平洋連携協定(TPP)と農協改革という2つの事案は多くの利害関係者が関わるものであり,賛成・反対という二元論では到底整理ができない。農業生産者にとっても,消費者にとっても,地域にとっても,もたらされる変化が好ましいものではないという可能性も十分考えられる。各主体が与えられた選択肢の中で最善の選択をし,適応していかなければならない。そのためには,正確な知識と,合理的な判断が必要だ。本特集がその一助になればと願っている。

 まず,生源寺眞一氏(名古屋大学大学院教授,当研究所理事長)には総論として,日本の食料と農業の現状を整理して頂いた。以降の議論を理解する上でのベースになるだろう。石井勇人氏(共同通信社編集委員兼論説委員)には,本特集の1つのテーマである環太平洋連携協定(TPP)について詳細に解説頂いた。神門善久氏(明治学院大学教授)には日本農業の本質的な課題に触れながら,本特集のもう1つのテーマである農協改革について述べて頂いた。小針美和氏(農林中金総合研究所主事研究員)には農業政策の目玉ともいえる農地中間管理機構について解説頂き,生産現場でこの制度を生かすための要件を述べて頂いた。川島博之氏(東京大学大学院准教授)には,農業と食料に関する話題として外れることのない食料安全保障について,上記の2つのテーマに触れながら述べて頂いた。

 本特集の趣旨を理解しながら,ご執筆下さった各氏に感謝の意を表したい。本特集の企画に携われたことを光栄に思う。

(宮﨑達郎)

主な執筆者:生源寺眞一,石井勇人,神門善久,小針美和,川島博之,白水忠隆,関 英昭

目次

巻頭言
新教育長とガバナンス──基礎教育制度の根幹を考える──(麻生 幸)
特集 日本農業の変わり目と問われる適応能力
総論 日本の食料と農業:現在地を確認する(生源寺眞一)
進化する「生きた協定」TPP──理念なき日本の交渉姿勢──(石井勇人)
日本農業の変質と農協改革の行き末(神門善久)
農地中間管理機構の創設と生産現場に求められるもの(小針美和)
日本の食料安全保障(川島博之)
コラム1 覚悟を決めてシンプルに──JA浜中町とJA越前たけふ──(白水忠隆)
コラム2 TPPに関する日本協同組合学会の意見表明について(関 英昭)
研究と調査
生協産直とは何か──生協の産直事業と食料・農業問題に関する調査より──(宮﨑達郎)
海外情報
フィンランドの高齢者福祉の近況とその前提②(鈴木 岳)
時々再録
日本記者クラブ「農業問題を考えるシリーズ」(白水忠隆)
本誌特集を読んで(2014・9)
(鈴木 穣・矢野朝水)
新刊紹介
土庫澄子著『逐条講義 製造物責任法』(板谷伸彦)
樋口恵子編著『自分で決める 人生の終い方』(山梨杏菜)
研究所日誌
2014年度(第12回)生協総研賞・助成事業の対象者を決定しました
2015年度アジア生協協力基金助成事業の一般公募について