生活協同組合研究 2014年10月号 Vol.465
特集:若年層のライフスタイル
子育てをしていると,子どもとともに成長していく同年齢集団(特に同学年コーホート)を大変身近に感じる。現在日本で多数を占めている子育てが終了した年長層にとっては,若年層のライフスタイルや考え方の変化はそうそう身近なものではないだろう。人々は自分の心地よい環境で生活できるよう日々「生活創造(故・御船美智子による)」して安住し,意識的でない限り新しいものには疎うとくなっていくからだ。疎さの加減は様々な社会調査でデータとしてもクリアに表出される「世代間ギャップ」といえよう。30年前に比べると情報の入手しやすさは格段に楽になっているので,世代間ギャップは指標によっては縮まっているとも考えられる。
今回の特集は,若年層の生活現状に焦点をあてて,生活ニーズそのものが以前と同じではないことを正確に把握し,次世代の組合員の生活創造を少しでも身近に感じ,ニーズを把握できるベースとなるよう,代表的な学術領域より論じていただいた。論点を紹介する前に,若年層の人口的な動向を簡単に紹介しておきたい。
1.若年層人口は減少中
今回の特集の対象となる若年層は10歳代から30歳代である。2014年8月に出された総務省統計局の各月1日現在人口の数値では,10歳代(10歳から19歳)は全人口の9.3%と1割を切った。
20歳代(20歳から29歳)と30歳代(30歳から39歳)は表1のとおりであるが,成人人口が1億人以上いる一方,未成人人口は2000万人と少子化を顕著に反映した数値となっている。成人人口比を出したのは,選挙権を行使できる年齢層において,20・30歳代は合計してもマイノリティとなっていることを確認したいためである。世代的マイノリティである影響は,この層のニーズの社会政策への反映がしにくいことも示している。また,労働統計では通常15歳以上人口を生産年齢として用いるが,高校就学率が9割もあり,18歳までは生産人口とは言い難がたい状況になっている。地域によっては20歳代が1割未満のところも増加している。従って高齢者扶養率を出す場合の分母はさらに小さいと考える必要がある。
2.「ゆとり世代」は2014年の18歳(高校卒業者)以上
2015年春の大学入試から,新課程(いわゆる脱ゆとりプログラム)対応となるため,高校3年以下は,教育内容が難化している。18歳以上の青年で現在26歳くらいまでの人たちが「ゆとり教育」として詰め込み教育を是正したプログラムで育った世代である。教育界では検証が始まるが,「ゆとり世代」は知識として,通史的に歴史を勉強していない,高校数学で統計を習っていないなどの面がある一方で,総合的な教育時間があり,自主的学習も推進され,思考タイプに特徴がみられるかもしれない。「ゆとり世代」の特徴は学術的には測定・一般化されていないが,上方世代からは「ゆとり」などと揶やゆ揄される場面が時々あり,見聞きする。本特集では,教育制度についてふれていないので,ひとつの時代効果・コーホート効果の可能性として記述しておきたい。
3.未婚率の上昇
今回の特集では若年層の結婚行動については千田有紀論考を見ていただきたいが,補足として「未婚率」のデータを挙げておく。現在,30歳の未婚率は50%以上であり,生涯未婚の人も増加すると予測されている。大学生恋愛は26-27歳結婚,インターネット上での出会いによる結婚はそれよりも年齢が高いところで結婚,など知り合った時期や場で違いが出るというデータもある。
「離婚しにくい」現行の婚姻制度を見直そうという動きが出てくる可能性もある。先進国では婚姻がすでに「伝統的な考えの」人がするライフイベントになっており,より自由度の高い婚姻(あるいは生活連帯)制度が必要となるかもしれない。
4.特集でのねらい
この特集では,表層的なトレンドではなく,生活のベースになる若年層の志向を捉えていただいた。玄田有史氏は希望学の視点から,若者の希望の変化についての調査結果をベースに,希望が損なわれやすい様々な局面を挙げ,孤立を防ぐことが重要と指摘する。千田氏には「家族」制度の平成時代のきしみを鋭く指摘いただいた。橋元良明氏には,精度の高い調査からみえる若年層の新しい情報活用と依存の危機について詳細に解説いただいた。白鳥和生氏は豊富な消費調査から,消費生活の方向性を多様に描いている。宮﨑達郎研究員は生協総研も共同研究している生協組合員の生計費調査から,家計分析と知見を提示した。これらをご自身の世代間ギャップを埋める材料として,ぜひご活用いただきたい。
(近本聡子)
主な執筆者: 玄田有史,千田有紀,白鳥和生,橋元良明,宮﨑達郎
目次
- 巻頭言
- 多数決は「議論が煮詰まって」から(天野晴子)
- 特集 若年層のライフスタイル
- 変わりゆく若者の希望(玄田有史)
- 「平成の家族」は存在するのか?(千田有紀)
- 変化の兆しを見せる「今どきの若者消費」(白鳥和生)
- イマドキの若者の情報行動(橋元良明)
- 2013年全国生計費調査から見た20・30歳代組合員の消費生活(宮﨑達郎)
- 海外情報
- 第11回国際サードセクター学会会議参加レポート(山崎由希子)
- フィンランドの福祉をめぐる近況とその前提①(鈴木 岳)
- 第三回アジア社会的企業研究会議 参加報告(近本聡子)
- 時々再録
- 日本記者クラブ研究会「貧困対策は必要か」(白水忠隆)
- 本誌特集を読んで(2014・8)
- (堀井宏悦・西村修一)
- 新刊紹介
- アルベルト・イァーネス著 佐藤紘毅訳『イタリアの協同組合』(大津荘一)
- 編集:中川雄一郎・杉本貴志,監修:全労済協会『協同組合 未来への選択 』(伊丹正和)
- 田口久美子 著『書店不屈宣言』(姜 政孝)
- 研究所日誌
- 2015年度アジア生協協力基金助成事業の一般公募について
- 2014年度第3・4回公開研究会のご案内