刊行物情報

生活協同組合研究 2014年9月号 Vol.464

特集:社会保障の変遷と課題,そして展望 ──国内外の福祉事情を踏まえつつ──

 本特集は表題のとおり「社会保障の変遷と課題,そして展望」を踏まえつつ,昨今の国外事情にも目を配った内容としている。実践例としては,紙幅上今回は子育て分野を中心に扱うものとなった。

 基調の西村論考では,「社会保障制度改革国民会議」の社会保障4分野(医療,介護,年金,子ども・子育て)の議論を概説しつつ,「貧困・就労支援」対策の重要性にも論究されている。なお西村氏は,日本生活協同組合連合会が設置した「社会保障政策検討委員会」の第1回学習講演(2013年8月)に登壇され,包括的な提言をされている。

 大林論考は,いわゆる1973年「福祉元年」のタイミングの悪さなどの社会保障制度の変遷を中心に構成されている。一方で,「社会的保護の床」を1枚板に張り替えることや,スイスのベーシックインカム導入の国民投票など,将来の課題も大きく論じていただいている。

 近本稿は子育て支援活動である「埼玉県のホームスタート事業」に関しての,上田稿はコープこうべの新規事業である学童保育「Terakoya」に関しての事例報告である。行政の支援の状況と課題についてもそれぞれ触れている。

 次に国外編として,秋朝論考では(人口968万人〈2014.5〉)国家・スウェーデンの「就学前学校」を軸に国とコミューンの関係と財政状況についての最新のデータ,さらに「親協同組合型」についての状況が豊富な現地取材とスウェーデン語の資料から論究されている。

 山崎論考は,カナダ・オンタリオ州の高齢者介護サービス制度について,地域ケアセンター(CCAC)での審査手続きから介護サービスの外観と負担の状況,さらに高齢者向け賃貸住宅スカーレット・ハイツの訪問取材からの所見を記すものである。

 最後に蛇足ではあろうが,フィンランドのコラムを配してみた。

 「社会保障と税の一体改革」のパンフレットによれば,2013年度の日本国民の保険料負担は62.2兆円,一人当たりにすると48.9万円である。前提として示しておく。

 9月27日に開催を予定する「全国研究集会」(企画詳細は本誌80ページを参照)でも,本号は基礎的な資料を提供するものと考えている。少しでも本テーマに関心のある読者各位に対して,全国研究集会への参集をお願いする次第である。

(鈴木 岳)

主な執筆者: 西村 淳,大林 守,近本聡子,上田尚美,秋朝礼恵,山崎由希子,鈴木 岳

目次

巻頭言
福祉国家イギリスの変遷(都築 忠七)
特集:社会保障の変遷と課題,そして展望 ──国内外の福祉事情を踏まえつつ──
社会保障の変化・役割・課題(西村 淳)
社会保障制度と実態経済の変遷から見た課題(大林 守)
マルチステイクホルダー・アプローチによる政策実現(近本聡子)
次代コープこうべ新規事業 学童保育「Terakoya(てらこや)」訪問記(上田尚美)
スウェーデンの子育て支援について(秋朝礼恵)
カナダの高齢者介護サービス制度の現状 ──オンタリオ州の場合──(山崎由希子)
コラム フィンランドの税・社会保障負担(鈴木 岳)
海外情報
ICA調査委員会主催国際協同組合研究会議に参加して(栗本 昭)
イギリス・コーペラティブ・グループの経営危機とそれを招いたもの(下)(佐藤孝一)
時々再録
読売テクノフォーラム「がん患者の希望と絶望 ──がん医療の日米格差はどこから生まれるか」(白水忠隆)
研究と調査
大学生活協同組合の課題と潜在可能性(滝川好夫)
本誌特集を読んで(2014・7)
(加藤 朗・松田妙子)
新刊紹介
藻谷浩介対話集『しなやかな日本列島のつくりかた』(伊藤治郎)
新雅史 著 『商店街はなぜ滅びるのか』(伊藤治郎)
大沢真理 著 『生活保障のガバナンス』(山下順子)
研究所日誌
第24回全国研究集会のご案内
知の市場関連講座「生協社会論」受講生募集
2014年度第3・4回公開研究会のご案内