生活協同組合研究 2014年8月号 Vol.463
特集:災害からの復元力
東日本大震災を経験し,従来の災害対策の様々な問題点が明らかになった。一方で,首都圏大地震や南海トラフ地震の可能性も高まっていると言われる。災害の発生を完全に防ぐことはできないが,被害を最小限にとどめ,発災後の復元力(レジリエンス)を高めることは可能だ。このような認識から,本特集を企画した。
林論文では,これまで日本で進められてきた防災対策のモデルが,近年の大規模災害に対して限界を露呈したことが示されている。従来のモデルでは対処の困難な課題に直面し,新たにレジリエンスモデルが提唱された。ただし,「完璧な対策」は存在せず,各種の対策を組み合わせた多重的な取り組みと,地域での様々なレベルでの実践が重要であるという。
中林論文では,首都圏で発生し得る災害の規模と,それに備えた新たな対策の主要事項が,詳細に論じられている。災害規模の想定に際して,予想され得る最も深刻な事態に備えるという,従来とは異なる枠組みが提示されたことが,その特徴であるという。同時に,対策を実践する上で,各地域の特徴を考慮に入れることや,地域間の連携の整備も,重要であるとされる。
奥山論文では,宮城県仙台市が東日本大震災で経験した事柄とそれに基づく対策が,具体的に示されている。震災を通じて,従来の対策の改善すべき点や今後の課題が明らかになったという。十全な対策を実現するには,政策上,制度上の取り組みだけでなく,「地域の力」を育む必要があると指摘されている。
萩原論文では,「地域の力」が発揮される条件を検討している。「レジリエンス」という概念は,マスコミ報道をはじめとして様々な場面で見られるが,そこで見落とされている点も多い。「人間一般」,「社会一般」を想定した意思決定モデルは,具体的な場面で有効に機能しがたく,地域の実態を考慮に入れた意思決定システムが重要となる。
コラムでは,生活協同組合連合会コープネット事業連合によるBCP(事業継続計画)と,NPO法人暮らしと耐震協議会による耐震補強の取り組みを扱った。これらにおいても,大規模災害への取り組みには「地域」という視点が重要であるということが,事例と共に示されている。
もちろん,「地域」なるものを手放しに賞賛してよいわけではない。昔ながらの血縁などに基づく関係は,今や必ずしも有効ではない。それらの関係に依拠するのではなく,人々の生活の場でレジリエンスが最大限に発揮されるには,どうすればよいのか。本特集は,その可能性と課題を示唆している。
(萩原優騎)
主な執筆者: 林 春男,中林一樹,奥山恵美子,萩原優騎,馬杉 弦(構成:萩原優騎),木谷正道
目次
- 巻頭言
- 分断された人の痛み,つなぐために(天野正子)
- 特集 災害からの復元力
- 災害レジリエンスを高めるには(林 春男)
- 首都直下地震と首都の復元力の向上(中林一樹)
- 仙台の経験から見た「次」への課題(奥山恵美子)
- レジリエンス・ブームの盲点(萩原優騎)
- コラム1 復元力のある生協をめざして ~コープネット事業連合におけるBCPの取り組み~(馬杉 弦(構成:萩原優騎))
- コラム2 生きていたくなるまちづくり~住まいと心の耐震補強~(木谷正道)
- オープンアクセス 第3回
- 博報堂生活総合研究所「生活定点」調査とは(宮﨑達郎)
- 時々再録
- 国際シンポジウム「広野町から考える」(白水忠隆)
- 海外情報
- 第7回非営利・社会的経済研究学会参加レポート(山崎由希子)
- フィンランドの生協をめぐる状況と雑感(鈴木 岳)
- イギリス・コーペラティブ・グループの経営危機とそれを招いたもの(上)(佐藤孝一)
- コーペラティブ・グループ(CG)2013年度決算――経営リテラシーが決定的に不足していた理事会と経営陣が招いた悲劇――(藤井晴夫)
- 本誌特集を読んで(2014・6)
- (牧内昇平・渡邉一博)
- 新刊紹介
- 国民文化研究会・新潮社編『小林秀雄 学生との対話』(眞田隆裕)
- 研究所日誌
- 第24回全国研究集会のご案内