生活協同組合研究 2014年7月号 Vol.462
特集:「2050研究会」中間報告──超少子高齢・人口減少社会の到来
2050研究会の立ち上げ
2050年,総人口は1億人を割り9,708万人,年齢構成は0~19歳13.4%,20~69歳54.7%,70~79歳15.5%,80~89歳11.1%,90~99歳4.6%,100歳以上0.7%になると推計されている1)。実に70歳以上が31.9%を占める超高齢社会である。赤ん坊(56万人)より百寿者(70万人)の多い時代,ほぼ5人に1人が「70歳超のお婆ちゃんの時代」2),年に160万人が亡くなる「多死の時代」でもある。5世帯に1世帯強が高齢者の単独世帯で,お爺ちゃん・お婆ちゃんの「おひとりさま世帯」がごく普通の風景になる。そして,介護予備軍(45~69歳 3,021万人)と要介護予備軍(70歳以上 3,105万人,80歳以上に限っても1,599万人)を見れば,認知症800万人3)を含め,正に「大介護の時代」4)となる。また,現在の居住地の約2割が無居住化し,三大都市圏への若者の流入が続けば地方を中心に今ある自治体の4分の1が消滅する可能性が大きい5)。将来推計人口は各種長期予測の中で最も狂いが小さい。「超少子高齢・人口減少社会」はこれから日本(当然,生協も)が確実に直面する社会であり,我々が未来を描く上で絶対的「動かぬ与件」になる。生協として「動かぬ与件」にどう対応するか,そのために今から何を準備すべきか。この問題意識が2050研究会を立ち上げた動機である。
生協の新たなビジネスモデルと組織モデル
動かぬ与件の只中にある2050年,生協が組合員・地域住民の日常生活を支えるプラットフォーム(拠り所)になるためのビジネスモデル・組織モデルを提言すべく2013年4月,生協総研に2050研究会を立ち上げた。白鳥和生(日本経済新聞編集局デスク),樋口恵子(NPO 法人高齢社会をよくする女性の会理事長),前田展弘(株式会社ニッセイ基礎研究所准主任研究員 兼 東京大学高齢社会総合研究機構客員研究員),松田妙子(特定非営利活動法人せたがや子育てネット代表理事),宮本みち子(放送大学副学長),若林靖永(京都大学大学院教授:座長)の各氏を委員に招き,これまで6回の勉強会と論議の場を持った。今後1年,2050年のあるべき生協のビジネスモデルと組織モデルを論議し,2015年初夏に提言を発表する計画だ。論議の行方によっては生協(協同組合)の枠を超える提言になる可能性もある。
特集のポイント
今回の特集は人口動態の第一級研究者である岩澤美帆氏(博士,国立社会保障・人口問題研究所)の基調論文に,これまでの勉強会で開示された委員・有識者の知見を加えた2050研究会の「中間報告」である。特集の最後に若林座長が解題を執筆されているので,ここでは各論文のトピックのみに触れておく。前田委員は高齢者市場セグメントをベースに具体的なアイデア(商助)を提示され,宮本太郎氏(中央大学教授)は「支え合い」のシステム転換~弱い個人による強い社会へ~を実現するための視点と道筋を示し,北濱利弘氏(三菱食品マーケティング本部部長)は食品流通の現場から見える台所・食卓の変遷と将来の姿を緻密な調査に基づき展望されている。樋口委員は「大介護の時代の地域とケア,そして生協」と題し,介護保険生みの親の一人として大介護時代のビジョンと生協に期待される役割を提起されている。榊原智子氏(読売新聞東京本社社会保障部次長)は社会保障制度の専門家として少子化克服を重要な柱とする全世代対応型の制度改革の緊要性を訴えておられる。
いずれの論考も我々生協が超少子高齢・人口減少社会2050年に向けて今からどのような備えをしていく必要があるのかを考える上で大きなヒントを与えてくれる。このヒントの延長線上で提言をまとめることになる。
【注】
1)総人口と年齢構成の数字は,国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」2013の死亡中位・出生中位を採用した。年齢区分は高校・専門学校・大学の2012年進学率(各97%・26%・54%),定年延長,健康寿命,要介護年齢などを考慮し,筆者が設定した。
2)岩澤美帆氏の生協総合研究所「2050研究会」(2012年4月19日,於:主婦会館プラザエフ)での講演より。
3)「NHK スペシャル」2014年5月11日放映。
4)樋口恵子『大介護の時代を生きる』中央法規出版,2012年12月。
5)内閣府「選択する未来」委員会中間整理(2014年5月),国土交通省「国土の長期展望」中間とりまとめ(2011年2月)。
(藤井 晴夫)
主な執筆者: 岩澤美帆,前田展弘,宮本太郎,樋口恵子,北濱利弘,榊原智子,若林靖永
目次
- 巻頭言
- 「2050」からの戦前責任(神野直彦)
- 特集「2050研究会」中間報告──超少子高齢・人口減少社会の到来
- 人口からみた2050年の日本社会(岩澤美帆)
- 超高齢社会における「商助」の追究──高齢者市場開拓の必要性と方向性──(前田展弘)
- 「支え合い」のシステム転換 2050年への一つの処方箋(宮本太郎)
- 大介護時代の地域とケア,そして生協(樋口恵子)
- 2020 ~ 50年を見据えた食品マーケティングの展開(北濱利弘)
- 持続可能な社会と社会保障に向けて──少子化の視点からの提起──(榊原智子)
- 解題 2050年の日本社会を考える意味(若林靖永)
- 研究と調査
- 屋久島電力調査参加の記(山崎由希子)
- 被災地からの報告
- 2013年下半期の志津川事情を語る②(佐藤俊光・高橋源一 聞き手:鈴木 岳)
- オープンアクセス 第2回
- 厚生労働省「国民健康・栄養調査」とは(宮﨑達郎)
- 時々再録
- データが未来の都市を創る?──京都スマートシティエキスポ2014報告──(白水忠隆)
- 本誌特集を読んで(2014・5)
- ( 阿部文彦・大塚敏夫・薮田高広)
- 新刊紹介
- 憲法問題に関する書籍(青竹 豊)
- 研究所日誌