生活協同組合研究 2014年6月号 Vol.461
特集:今日の労働実態から将来展望へ
本号は日本の労働を巡る状況から入りつつ,将来展望へとそれぞれの卓抜した専門家の論考を主体としている。加えて,職員の正社員化や処遇に関するコラムで構成している。
巻頭言では,武田晴人氏に特集に合わせたエッセイをお記しいただいた。雇用形態に関して,最近の政治的動向の危うさとその「自由」の基本的問題点を指摘されている。
木下武男氏に基調の論考をお願いした。「非正規雇用」や「ブラック」問題が一層進化するなか,市場主義の政府には期待は出来ず,「労働運動側が,明確な対抗政策を打ち出し,運動によって実現をはかること」(p.13)を主張されている。
太田肇氏は生協を含めた非営利セクターでの働き方と働く人の意識を巡って議論を展開しておられる。エフコープでの「私の目標」の事例では,「非営利組織における承認」(p.17)のあり方に触れられている。
とはいえ,労働をめぐる変化は急速である。本年も3月から4月にかけて将棋界では「電王戦」が5局行われたが,プロ対コンピューターの勝敗はプロ側の1勝4敗(昨年は1勝3敗1分)という衝撃的な結果となった。(西洋)チェスは既に1990年代後半にコンピューターがプロを凌駕しているが,取った駒を使える複雑な日本の将棋では,コンピューターはかつてプロの域にはとても達しないといわれたものである。しかしコンピューターに凌駕されつつある今,かつて少年の憧れだった棋士を目指す人間は残念ながら減ると思われる。このような流れを受けて,松田卓也氏には,肉体労働者のみならず知的労働者の将来と,今後の展望を忌憚なく記していただいた。今後労働をめぐって人類を待っているものはユートピアなのかディストピアなのか,次号に予定する「2050研究会」中間報告にもつながる内容となろう。
ILO(国際労働機関)駐日事務所からは,世界の雇用動向の最新事情を頂いた。雇用と社会的な格差是正には,マクロ経済政策と労働所得増加の再均衡が重要ということである。
コラムは全て当研究員の取材によるものである。尼崎市を本拠とする「ひまわり医療生協」,2009年に正社員化が話題となった「広島電鉄」,「みやぎ生協」の昨年から始まった新たな人事政策の3つである。ご多忙のなか取材をお受けいただいた各位に対し,感謝を申し上げる。
(鈴木 岳)
主な執筆者:木下武男,太田 肇,松田卓也,徳田幸博(構成・山崎由希子),白水忠隆,吉島 孝・藤井將喜(構成・鈴木 岳)
目次
- 巻頭言
- 雇用機会の保障(武田晴人)
- 特集 今日の労働実態から将来展望へ
- 崩れゆく日本の労働社会とその再構築(木下武男)
- 非営利組織での働き方,働かせ方(太田 肇)
- 人工知能とロボット──ユートピアかディストピアか──(松田卓也)
- 資料 ILO報告書 世界雇用動向2014年版「職のない景気回復のリスク?」概要(ILO駐日事務所)
- コラム1 協同組合理念に沿った職員待遇と安定経営のはざまで(徳田幸博[構成・山崎由希子])
- コラム2 非正規社員の正社員化から5年──広島電鉄インタビュー──(白水忠隆)
- コラム3 みやぎ生協の新たな人事政策(吉島 孝・藤井將喜 [構成・鈴木 岳])
- オープンアクセス 第1回
- 総務省統計局「家計調査」とは(宮﨑達郎)
- 海外情報
- MIGROSとCOOPスイスの2013年決算の概要(藤井晴夫)
- スペイン第2の生協CONSUMを視察して(皆地恵実)
- 時々再録
- 女性の登用は慈善事業ではない──国連ウィメン会見ほか──(白水忠隆)
- 本誌特集を読んで(2014・4)
- (有光 裕・藤本穣彦・鈴木 亨)
- 研究所日誌
- 第12回生協総研賞・助成事業の実施要領
- 公開研究会のご案内(第1回,第2回)