刊行物情報

生活協同組合研究 2014年5月号 Vol.460

特集:貧困問題と生協の取り組み

 本号の特集は,2年前の拙誌特集「多重債務相談・貸付事業研究会を終えて」(2012年3月号)を踏まえつつ,多重債務者や生活困窮者に対する昨今の各生協の取り組みを中心に扱った内容である。

 今も色褪せない一般向けの名著『若者が「社会的弱者」に転落する』(洋泉社新書,2002年)の著者として高名で,現在は生協総研「2050研究会」のメンバーも務めて頂いている大御所の宮本氏には,基調論考をお願いした。貧困の実態から家族からの排除,社会的排除の問題を中心として,紙幅の制約にもかかわらず明晰に論点が整理されている。

 福岡のグリーンコープ生活再生事業推進室・行岡氏には,無理をいって現地でインタビューをさせていただいた。「全ての結果がお金と絡んでいること」と,「家計簿を付けなさいと……求めても無理です」と経済と人間を認識した上で,先駆的な方策を次々と打ち出されてきたことが,聞き手の力不足にもかかわらず,よく理解できよう。

 サポート生協・東京,志波氏の論考は,厳しさを増す貧困の状況が具体的に披瀝されているが,それとともに生活する側の力の衰退までの「くらしの貧困」の多様な原因を指摘している。すべてを金銭に特化し,それを是としてきた日本社会の影の部分を論及する文明批評にも思える。

 前回の特集でもお記し頂いているみやぎ生協の小澤氏の論考からは,「くらしと家計の相談室」を開設した後の動向と諸課題,さらにサポートする事業の拡大が読み取れる。3年前に当地を襲った大震災からの復興が生活する上で実感できない状況も改めて解る内容である。

 国民皆保険といわれる日本でも,実は国民健康保険の対象世帯の滞納は約2割にのぼる。所得税・住民税などの比ではない逆進性の強い制度上の欠陥があり,かつ自治体に納入する保険料(税)が高額だから,格差拡大社会になれば当然そうなってしまう。その中で,尼崎医療生活協同組合・杉山氏の論考は,無料低額診療事業の導入とその状況を記すものである。生協は「社会事業の開拓的役割」を発揮できること,とはいえ「今後の公的社会保障のあり方への論議」という根本的な課題まで,遺漏なく提示されている。

 コラムは3つ,それでもお金が必要な時の一方法を齊藤研究員が,国外の消費者金融についての情報を熊倉氏が,フランスの状況を愚生が記した。

 現状の経済社会状況,低所得の人々にとって,消費税増税など厳しくなってきている。気の重くなるテーマであるが,地域のくらしの一端を担う生協にとって,今後より直視すべきと考える次第である。

(鈴木 岳)

主な執筆者:宮本みち子,志波早苗,行岡みち子,小澤義春,杉山貴士,齊藤真悟,熊倉ゆりえ,鈴木 岳

目次

巻頭言
アジアを訪ねて30年──都市や農村は変わったか──(赤石和則)
特集 貧困問題と生協の取り組み
貧困と社会的孤立(宮本みち子)
生協組合員のくらしと貧困の関係──くらしの相談事例を通して考える──(志波早苗)
グリーンコープ生活再生事業の取り組みと近況(行岡みち子)
誰もが安心して暮らせる“みやぎ” をめざして──みやぎ生協生活相談・家計再生支援貸付事業「くらしと家計の相談室」の現状とこれから──(小澤義春)
医療生協が取り組む無料低額診療事業の意義──現代の日本社会における「社会事業の開拓的役割」として──(杉山貴士)
コラム1 突然お金が必要になったら──契約者貸付制度の検討──(齊藤真悟)
コラム2 諸国の消費者金融の状況(熊倉ゆりえ)
コラム3 フランスの個人をめぐる金融システム,及び多重債務者の状況と取り組み(鈴木 岳)
研究報告
子育てを通じた地域参加の場づくりへ──コープみらい・ちばエリアの子育て支援12年の歩みから──(林 美栄子)
海外情報
アメリカにおける原子力エネルギーと代替エネルギー(デボラ・シュタインホフ,監訳:栗本 昭)
時々再録
福島事故調 3委員長討論会(白水忠隆)
本誌特集を読んで(2014・3)
(小坂佳子)
新刊紹介
読売新聞生活部編著『こうして女性は強くなった。──家庭面の100年』(亀田篤子)
研究所日誌