刊行物情報

生活協同組合研究 2014年3月号 Vol.458

特集:新しい子ども・子育て支援法と生協の地域子育て支援

 この10年ほど、生協活動のなかでも「子育て」と「子育て支援」の研究と仕組みづくりに関わってきたなかで、子ども・子育て3法の本格実施(2015年春から)は、とても楽しみなところである。単に保育制度が変わるのではなく、子どもを育てることに社会が目を向けることが決まったからである。だが、財源が無いなかで、消費税の増税による財源確保が行われ、生協の組織や消費者は日々痛みを伴う。北欧並みの「高福祉高負担」ではないにしても「中福祉中負担」への制度変化そのものへの不安も大きいと考える。

 制度の変化についていく、あるいは制度を活用するためには、変化がどのように企てられ、どのような方向に行こうとしているかについて、情報や知識を正確に得ることがまず重要である。

 今回の特集では、この制度変革について、どのようなポイントがあるのかを柏女霊峰氏に概観いただいた。氏は2006年に日本生協連が諮問委託し、当研究所で実施された「生協の子育て支援研究会」の学識委員を務めてくださっており、その時のディスカッション報告で生協への様々な可能性も提言している。本号では、制度変化の概要を解説いただいた。

 連合の平川則男氏には、この制度変化についてポイントと期待,これから出てくるであろう論点を解説いただいた。子どもの最善の利益こそが制度で確保されるべきであるとの持論を展開されており、共感できるところである。

 平川氏の論考でふれられているが、フランスは子育て支援を経済的にも厚く実施して少子化を食い止めている。フランス社会の研究者で、当研究所の「子育てにおける親の協同研究会」メンバーでもある木下裕美子氏に、フランス事情を解説いただいた。子育て支援という領域は多様な制度政策から組み立てられていることが分かる。また、生協でも来年度以降、何かできることがある、という視点から近本が可能性を執筆した。関連コラムは、子育て支援の分野で独自の活動をしている生協にフォーカスして書いていただいた。組合員の加入促進に成功しているコープさっぽろ、認証保育園を経営しだした生活クラブ生協・東京である。しにせの福井県民生協については、東京大学社会科学研究所の紀要に近本が論考を掲載しているので(WEBにて無料で入手可能)、詳細はそちらに譲る。また、当研究所の生協総研レポート73号は、特に子育ての「親の協同」について特集をしているので、合わせてご覧いただければ幸いである。

(近本聡子)

主な執筆者:柏女霊峰,近本聡子,平川則男,木下裕美子,宮﨑達郎,若松恵子

目次

巻頭言
内部留保について考える(小栗崇資)
特集 新しい子ども・子育て支援法と生協の地域子育て支援
子ども・子育て支援新制度の検討と子ども・子育て会議(柏女霊峰)
子ども・子育て新制度に向けて生活協同組合のできること──地域社会を豊かにするための一つの大きな領域の出現──(近本聡子)
子ども・子育て支援の社会化に向けた検討──関連三法と制度の課題──(平川則男)
フランスの子育て支援事情(木下裕美子)
コラム1 コープさっぽろの子育て支援事業の概要と経営的な効果について(宮﨑達郎)
コラム2 協同組合型で生み出そう! 子育て支援の新しいカタチ──子育て支援フォーラムを開催して──(若松恵子)
研究報告
移動販売車のデータ分析から見えてきた高齢過疎マーケットの本質(下)(川崎正隆)
インターネットモニターアンケートからみる組合員の放射能汚染忌避意識について(加藤朋江)
研究ノート
イギリスの友愛組合を訪問して(横溝大介)
海外情報
第8回ICAアジア研究会議に参加して(宮﨑達郎)
ICAの中心的価値は地域の個別性と両立し得るか?──第8回ICAアジア研究会議・発表の概要──(萩原優騎)
本誌特集を読んで(2014.1)
(服部 真・古田元夫)
私の愛蔵書
鬼頭秀一 著『自然保護を問いなおす──環境倫理とネットワーク』(萩原優騎)
研究所日誌
アジア生協協力基金