生活協同組合研究 2013年9月号 Vol.452
特集:欧州における生協の最新事情2013年
2008年のリーマンショックを発端とするヨーロッパの経済・金融危機が一層深化し,南欧諸国や東欧諸国などは通貨・財政危機に直面し,失業率は高止まりし,消費者の生活は悪化している。ヨーロッパの協同組合金融機関の多くは地域社会に根ざしており,高リスク商品に手をつけていなかったため,レジリエンス(耐久力)を発揮したと評価されているが,倫理政策で世界の協同組合金融機関のモデルとなったイギリスの協同組合銀行は合併先のブリタニア住宅金融組合の不良債権によって危機に直面している。ヨーロッパの生協も経済危機に立ち向かうために様々の取り組みをすすめている。この特集はヨーロッパ各国の生協の到達点と事業戦略を紹介する。
冒頭論文「ヨーロッパ生協の到達点とICAブループリント」はヨーロッパ生協に関する統計を紹介しながら,各国生協の歴史的到達点を概観している。さらに昨年発表された2020年に向けてのICAブループリントのテーマにそってヨーロッパ生協の課題を提示する。
天野論文「コープ・デンマークの商品を通じた国際協力」はデンマーク生協の概況を解説し,そのフェアトレードの取り組み,とりわけアフリカ諸国との倫理的貿易による商品を通じた「サバンナ・プロジェクト」について紹介している。
堀内論文「再生したオランダの生協」は1972年にコープ・ネーデルランドが解散した後の生協の歴史を振り返りながら,再生したコープ・ネーデルランドの価値と理念,ガバナンス構造,オランダの小売市場におけるポジションと店舗事業の概要を紹介している。
星野論文「イタリア生協ノバコープの食教育から学んだこと」はイタリアの北西部のトリノを中心に活動する広域生協ノバコープにおける生協の食教育の実情を紹介している。イタリアはスローフード運動の発祥の地であるが,生協の食に関する消費者教育の積極的な取り組みから学ぶことは多い。
佐藤論文「スイス・ミグロ生協の事業戦略」は,スイス最大の小売企業であるミグロの事業を概観し,とりわけミグロの国外進出の歴史と最近の動向,オンライン事業の拡大,生産事業本部の輸出拡大方針と日本事務所開設について紹介している。
近年出版された『危機に立ち向かうヨーロッパの生協に学ぶ』(コープ出版,2010年)および生協総研レポート69号『欧州生協の動向2011』(2012年)と併せて本特集が活用されることを期待したい。
(栗本 昭)
主な執筆者:栗本 昭,天野晴元,堀内聡子,星野浩美,佐藤孝一
目次
- 巻頭言
- 生協運動において,なぜ労働者は二の次とされてしまったのか(中川雄一郎)
- 特集 欧州における生協の最新事情2013年
- ヨーロッパ生協の到達点とICAブループリント(栗本 昭)
- コープ・デンマークの商品を通じた国際協力(天野晴元)
- 再生したオランダの生協(堀内聡子)
- イタリア生協ノバコープの食教育から学んだこと(星野浩美)
- スイス・ミグロ生協の事業戦略(佐藤孝一)
- 研究と調査
- 都内2生協の組合員意識に関する研究(友田さゆり)
- 改めてフルタイム就労している女性組合員の購買動向に注目する──若年層での増加をみて──(近本聡子)
- スペイン協同組合事情 第2回
- スペインの伝統的な協同組合(廣田裕之)
- 海外レポート
- 巨額の赤字決算に陥ったイギリスの協同組合銀行(藤井晴夫)
- キプロスの歴史と現況・協同組合史(鈴木 岳)
- 本誌特集を読んで(2013.7)
- (平山 徹・佐藤道夫)
- 新刊紹介
- 岡崎武志 著『蔵書の苦しみ』(鈴木 岳)
- 研究所日誌