生活協同組合研究 2013年8月号 Vol.451
特集:消費者ニーズの変化をどうとらえるか
かつてエピクロス(A.C.341-A.C.270)は「我にパンと水さえあれば,神と幸福を競うことができる」と語った。現在の日本は,例えば「買い物弱者」などの諸要素を捨象したとして,「100円ショップ」や「業務系スーパー」を利用するだけでも食生活は何とか成立しよう。一方で米国の経済学者,ソースティン・ヴェブレン(1857-1929)が指摘したような「衒示的消費」という要素も今日一層進んでいるかに見える。経済格差が拡大し,不安定要素の顕在化する状況が論じられて久しい。このなかでは,消費者ニーズも変わるのは当然といえる。その変化をとらえつつ,生協が求められているものを多角的に論じるものが本号である。
最近は高齢者をめぐる論考がとりわけ冴える樋口恵子氏からは,地域づくりを「食」から始めることは本筋であるとし,事例紹介の中で生協の果たす役割を一層期待されている。
マーケティング研究の第一人者で,消費者の深層心理研究を基軸とされている上田隆穂氏の論考では,「インターナル・マーケティング」の重要性を示し,コープさっぽろでの実験を含め,生協店舗職員のあり方を提起し,人は店から買うのではなく人から買うという本質を提示している。
流通,商業論で多くの著作があり,昨年の全国研究集会で東日本大震災後の地域振興について講演された加藤司氏の論考は,コアな組合員以外を取り込もうとするなら,生協と他の小売業を使い分ける利用者にもコープ・ブランドをどのように訴求するか,英国のTESCOのPBも例証しつつ課題を示している。
内藤眞弓氏は,ファイナンシャルプランナーの視点から,主に若い世代の消費者を取り巻く環境を踏まえ,過去の勝ちパターンから脱却した生活設計を提案されている。
松本世氏からは,昨年夏に行われたWEB上のアンケート調査から,生協組合員の環境や年中行事の関心に関する報告をいただいた。
宮﨑達郎研究員は,2012年度全国生協組合員意識調査のデータから生協利用額の大きい組合員の特徴を分析,さらに生協に求められるマーケティングを提起している。
コラムとしては,雨宮紀子氏からイタリア,林美栄子氏からデンマークの昨今の食事情を軸に記していただいた。
なお,本号は2013年3月号とともに,来月の9月28日に開催する「第23回全国研究集会」の参考資料とするものである。
(鈴木 岳)
主な執筆者:樋口恵子,上田隆穂,加藤 司,内藤眞弓,松本 世,宮﨑達郎,雨宮紀子,林 美栄子
目次
- 巻頭言
- 女性の活躍促進というけれど(大沢真理)
- 特集 消費者ニーズの変化をどうとらえるか
- 食品力を生かした地域づくり,生協活動(樋口恵子)
- 生協店舗職員は顧客(組合員)ニーズに応えているか?(上田隆穂)
- アイデンティティ・クライシスとしてのCoopブランド(加藤 司)
- ファイナンシャルプランナーから,若い人々への生活設計サジェスチョン(内藤眞弓)
- インターネットモニターアンケートから見る組合員の動向について──環境・年中行事実施率の視点より──(松本 世)
- 組合員の生協利用額の規定要因分析──2012年度全国生協組合員意識調査より──(宮﨑達郎)
- コラム1 食卓から肉や魚料理が消え(雨宮紀子)
- コラム2 「何を食べる」から「誰とどう過ごすか」の食卓へ(林 美栄子)
- 研究と調査
- なぜママたちは西へ逃げたのか?──原発事故以降の食と子育ての意識変化を考える──(加藤朋江)
- 本誌特集を読んで(2013. 6)
- (竹野ユキコ・青木美紗)
- 私の愛蔵書
- 村上陽一郎 著『文明のなかの科学』(萩原優騎)
- 研究所日誌
- 第23回全国研究集会のご案内