生活協同組合研究 2013年7月号 Vol.450
特集:人生の終焉,いま葬祭をめぐって
冠婚葬祭は,かつて不明朗な業界であるといわれた。どちらも当事者にとって相場が見えないからである。それでも,結婚式の準備は事前に期間があるが,葬儀はそうはいかない。たいていは,慌ただしく業者任せに一連の行事が過ぎていくものであった。しかし,この分野にも農協と同様,近年生協も取り組んできている。そこで現在の葬祭とその事業の状況を概観しつつ,生協やワーカーズでの具体的な事例を扱うのが本号である。
基調となる山田論考では,葬儀とはコミュニティにとってどのような意味をもつのか。そして1990年代以降の我が国の「葬儀」の変化を,氏の専門の民俗学の視点を中心に論じている。
碑文谷論考では,葬送ジャーナリストとして全体的な状況に通暁されている立場から,葬儀の経済的な費用の実態をその史的変遷を踏まえて丁寧に記述していただいた。生協・農協による葬儀事業にも触れられている。
八木氏のインタビューでは,ご自身が苦労して進めてこられた状況から,全国の生協での葬祭事業の情報交換の場である「全国生協葬祭事業推進協議会」のこと,さらに生協で取り組んできた成果と今後の課題などを包括的にお話しして下さった。
いわて生協の吉井氏には,数少ない直営形態で事業を行っている本生協での葬祭の展開について,その状況を各種データとともにお書きいただいた。
「東京ワーカーズ葬祭サポートセンター」での浅賀氏からの聞き取りからは,実際の仕様書などもご提供いただいた。文中,その経緯と思いが率直に伝わると思う。
また,コラムとして,武田氏に火葬場の最新事情について,歴史的な経過と将来の見込みを踏まえた考察をお願いした。先進事例としてのイギリスとスウェーデンの生協での葬祭事業の概況を紹介したものが,栗本研究員のコラムである。
葬祭のテーマ自体は,実は,経済誌ではこのところ毎年恒例となっている。が,本誌では初めてとなるテーマ,生協にも引きつけることができただろうか。ご意見をお寄せ下さい。
(鈴木 岳)
主な執筆者:神野直彦,山田慎也,碑文谷 創,八木芳久(聞き手:鈴木 岳),吉井いづみ,
浅賀ふみ枝,武田 至,栗本 昭
目次
- 巻頭言
- 四苦八苦(神野直彦)
- 特集 人生の終焉,いま葬祭をめぐって
- 消費社会における私らしい死と葬儀の模索(山田慎也)
- 「葬儀費用」の考え方 葬式の変化と費用の実情(碑文谷 創)
- 生協の葬祭事業の展開と課題──「生葬協」の取り組みから聞く──(八木芳久(聞き手:鈴木 岳))
- いわて生協の葬祭事業の歩み(吉井いづみ)
- 悲しみを冷静に,消費者の立場でコーディネイトできる伴走者でありたい(浅賀ふみ枝)
- コラム 火葬場不足の最新状況について(武田 至)
- コラム イギリスとスウェーデンの生協の葬祭事業(栗本 昭)
- スペイン協同組合事情 第1回
- スペインの昨今の事情(廣田裕之)
- 海外レポート
- ミグロとコープスイスの各2012年アニュアルレポートから──理事長・CEOの序文──(佐藤孝一・訳)
- MIGROSとCOOPスイスの2012年決算数字を読み解く(藤井晴夫)
- 本誌特集を読んで(2013. 5)
- (藤木千草,熊倉ゆりえ)
- 竹信三恵子論文「『雇われない』の意味,変質への懸念」(田嶋康利)
- 新刊紹介
- 萩原・皆川・大沢編『復興を取り戻す──発信する東北の女たち』(山崎由希子)
- 研究所日誌