生活協同組合研究 2013年6月号 Vol.449
特集:当世教育事情とその周辺
教育と協同運動はもともと親和性が強かった。「協同組合の父」といわれるロバアト・オウエン(1771-1858)が現在は世界遺産となっているスコットランド・ニューラナークの地で工場経営のかたわら19世紀はじめに「性格形成学院」を設立,賞罰と暴力を否定し実物・暗記教育を実践したことはよく知られている。とはいえ,各国によって差はあれ,初等中等教育は公教育によるものを主としていくこととなった。
さて,今月号は子どもや教職員をめぐる課題や動向を中心に特集を組んだ。
冒頭の小野田論考では,現代の教育現場が抱える問題を,教職員と保護者の関係づくりの側面から分析し,保護者からのクレームへの対応に苦悩する現状を,アンケート調査や事例を交え解説している。
高山論考は,子どもたち自身が選択することのできる「学校」以外の多様な「学びの場」を実現させるための法案について,その仕組みと意義を論じている。
雲雀氏は,教育制度や教職員の苦悩だけが課題ではなく,子どもへの虐待の増加という社会現象が親たちの子育てへの不安から来るという認識から,埼玉県越谷市で「子どもの権利」を親たちが改めて学ぶための講座を開いているNPOの取り組みを紹介している。
教育現場を支える立場から,市岡氏は,学校教育用品を取り扱うなかで,子ども・保護者・教員それぞれのニーズを汲んだ商品開発の様子を紹介している。
教員が抱える問題は多様であるが,雇用条件の問題がある。臨時教員の実態に関して宮野氏に取材したものがインタビュー記事である。
なお,コラムとして,イタリア全般に通暁している大津研究員から,今回は同国の意外な教育事情を広範に紹介している。
加えて「多様な教育方法」①②を63、65ページに入れてみた。
本特集は当初「初中等教育をめぐる現状」をテーマとしていたが、拡散したため最終段階で本表題に変えたことをご了承下さい。「教育」という極めて広範なテーマの一断面を扱ったに過ぎないとはいえ,あまり知られていないが看過しえない論点を取り上げた一味違うものとなったと思う。
(鈴木 岳)
主な執筆者:小野田正利,高山龍太郎,雲雀信子,市岡茂樹,宮野郁夫(聞き手・鈴木岳),大津荘一
目次
- 巻頭言
- 初中等教育に望みたいこと(兵藤 釗)
- 特集 当世教育事情とその周辺
- 待てない,待たせることが悪の時代と学校─保護者間トラブル ──教育活動の特殊性に起因する苦しさ──(小野田正利)
- 子どもの多様な学びの機会を保障する法律づくり(高山龍太郎)
- 人権学習『今,子どもたちに伝えたいこと』(雲雀信子)
- 全国学校用品株式会社をご存知ですか?(市岡茂樹)
- インタビュー 臨時教員の状況について(宮野郁夫(聞き手・鈴木岳))
- コラム イタリアの教育制度(大津荘一)
- 研究と調査
- カナダにおける地域エネルギー協同組合の取り組み事例(山崎由希子)
- 海外レポート
- スイス経済誌の見た協同組合ミグロの評価(佐藤孝一)
- 英国The Co-operative Group (GC) のLloyds銀行632支店買収計画の破綻(藤井晴夫)
- 本誌特集を読んで
- (森口文明・松本典丈)
- 新刊紹介
- 樋口恵子著『大介護時代を生きる』(藤井晴夫)
- 私の愛蔵書
- 二宮皓 監修『こんなに違う!世界の国語教科書』(鈴木 岳)
- 研究所日誌