刊行物情報

生活協同組合研究 2013年2月号 Vol.445

特集:水──国際水協力年を記念して

 ペンギンを図柄にした10円記念切手を想起する1957年の「国際観測年」を端緒として,国際連合総会では,それからほぼ毎年何らかのテーマの「国際年」を定めている。昨年2012年は,もちろん「国際協同組合年」で,同時に「すべての人のための持続可能エネルギーの国際年」でもあった。本年も2つが定められた。そのひとつは,「国際キノア年」(International Year of Quinoa)である。「国際連合広報センター」のホームページを要約すれば,アンデスの先住民が,伝統的な知識と生活の実践を通じて「キノア」(キヌアともいう。小さな小麦,ペルーの米などと表現される栄養価の高い穀物)を自然の状態で維持管理してきたことへの認識を高め,将来の食料の安定供給と貧困対策への貢献を再認識するという。

 もうひとつは,もちろん本特集の主題にある「国際水協力年」(International Year of Water Cooperation)である。環境保全および貧困と飢餓の撲滅など,持続可能な開発の実現に水の果たす重要な役割はいうまでもない。人間の健康と福祉に不可欠であり,ミレニアム開発目標(MDGs)の達成に向けての要である。しかし現在,安全な飲料水と基本的な衛生施設を継続利用できない人口を半減するという目標に向けた進展は遅く,不均等である。開発や気候変動など様々な状況が水の量と質に深刻な影響を与えている。このような認識を重要視し,くらしに不可欠な水をめぐる特集として,それぞれのテーマに特に秀でた専門家で構成したのが本号である。

 基調となる沖論考では,広範な水をめぐる問題を極力平易で包括的に解説していただいたものである。日本の都市が水を享受しているのは,雨が多いというよりも水インフラの整備が大きな理由ということがわかる。保屋野論考は,日本の水資源開発制度の経済的貢献と流域の犠牲・住民の負担増という問題との所在をふり返っていただいている。「水ガバナンス」の問題は,基調稿での考察と結びつくものであろう。さらに震災後にエネルギー問題が目に見えるようになったなか,日本の「水社会」での小水力の優位性と重要性を,冷静な技術論と熱い信念を持って記されているのが小林論考である。井出・伊藤論考では。滋賀県内の生協や労働組合が深くかかわり琵琶湖の水質悪化に取り組んだ「石けん運動」と1980年「びわ湖条例」の施行,1990年代の「流域」環境保全と行政の動向を丹念に追い,消費者の覚醒を期待している。現地での最新取材に基づき四国・吉野川流域の治水と利水の歴史と現況,渇水と洪水という相反する問題への対応,そして森づくりの進展にまで踏み込んだものが林論考である。

 今回はコラムも4つそろった。特に斉藤稿は,バングラデシュの課題と井戸の事例を現地報告として記して頂いた興味深いものである。イタリアの水事情と生協連キャンペーンの大津稿など合わせてご覧いただきたい。

(研究員・鈴木 岳)

主な執筆者:沖 大幹,保屋野初子,小林 久,井手慎司,伊藤真紀,林 薫平

目次

巻頭言
「デフレ脱却」策の先に見える風景(武田晴人)
特集 水─国際水協力年を記念して
世界の水と日本──国連ミレニアム目標と国際水協力年──(沖 大幹)
日本の水道の「過剰」「過疎」問題と水ガバナンス(保屋野初子)
小水力発電の可能性と普及に向けた課題(小林 久)
琵琶湖の水環境をめぐる市民運動史──石けん運動から流域環境保全まで──(井手慎司・伊藤真紀)
四国三郎吉野川水系の上下流問題(林 薫平)
コラム 1
安全な水と美味しい水──バングラデシュの井戸水──(斉藤 進)
コラム 2
日本の一般世帯における水道料金のしくみと地域格差(鈴木 岳)
コラム 3
イタリア生協連「水道水の利用促進キャンペーン」(大津荘一)
コラム 4
フランス史から眺める水事情・水戦略(鈴木 岳)
支援活動から見えてきたもの⑥
パルシステム東京の震災復興支援(井内智子)
海外レポート
国際協同組合サミット研究者セミナー参加レポート(山崎由希子)
研究レポート
国際公共経済学会・京都大会(栗本 昭)
残しておきたい協同のことば 第23回
エドガー・ミヨー(鈴木 岳)
本誌特集を読んで
(堀江智子・米倉克良)
新刊紹介
ジョセフ・E.スティグリッツ著『世界の99%を貧困にする経済』(栗本 昭)
研究所日誌